キリスト紀元15世紀
ヨーロッパは目覚めの時を迎えていた
ポルトガルではエンリケ航海王子が海の彼方を目指し
フランスではロレーヌの乙女ジャンヌが起ち
イタリアではルネサンス文化が花開きつつあった
そのころ 西欧の人々の全く目に止まらぬ彼方
蒙古人の支配するロシアの奥地に
一つの都市が存在した
この都市の名をモスクワという
12世紀には取るに足らぬ寒村
14世紀にはロシアで五指に入る都市
来るべき15世紀に
その名はさらに大となろう
Europa Universalis II : A Moscovy AAR
はじめに
これは何かというとコンピュータゲーム『Europa Universalis II』のリプレイです。
ヨーロッパを中心に全世界を舞台とした、ちょっと「信長の野望」っぽい陣取りゲーム。扱う時代は1419〜1819年、要するにヨーロッパの勃興期です。
そしてこのゲーム、何がいいといって外交面がいい。具体的に言ってあらゆる戦争に口実(Casus
Belli)が要るのです。口実を見つける方法はいろいろあって、
・「わが国固有の領土」を敵が領有している。
・「同盟国に乞われたのでやむなく」参戦する。
・歴史イベントやランダム・イベントで隣国との間にモメごとが起きる。
といったところ。
これで勢力を拡大するわけですが、勝利条件は世界征服ではなく(そして世界征服はまずムリで)、他国より多くのポイントを植民、改宗、戦争、外交等でカセぐことなので、大国でやれば勝利自体はごくカンタン。勝ち負けよりはむしろ、「どこまで行けるか」を楽しむゲームです。
スウェーデンの無名メーカーの出したゲームながら、世界各国語に翻訳されて出回っているスグレモノ。
日本語版もあります。
さて、このゲームには複数のシナリオがあり、各シナリオで「そのとき地上に存在しているすべての国」の中から一国を選んでプレイできるのですが、ここではモスクワ大公国――後のロシアを選択してみます。
理由は
・取るに足りない小国から世界レベルの大国に成り上る過程が楽しめる
・歴史イベントが豊富で飽きない
・ゲーム中盤での選択肢が広い
・俺がロシアファンだ
といったところ。
第一章:ワシーリー一世ドミトリーエヴィチ
Василий I Дмитриевич
十五世紀、東の元帝国が滅んでからも、中央アジアやロシアはまだまだ蒙古系の諸汗国の勢力圏下でした。
当時ロシアを治めていた汗国は金帳汗国といいます。金帳とは黄金の天幕の意。ロシアのほとんどの土地はこの金帳汗国の直轄領、あるいは属領でした。多くのロシア系の大公国・公国・共和国が、汗国に忠誠を誓い、貢ぎものを送っていたのです。
そんな属国の一つにモスクワ大公国があります。もとはごくちっぽけな国ですが、汗国にたくみにとりいって大きくなりました。
さて、モスクワ大公国当代の当主ワシーリー一世は傑物で、硬軟両方の策を用いて多くの公国を併合しました。むしろやりすぎたといっていいでしょう。宗主国である金帳汗国は、子分にあたるモスクワがノシて来たのを見て、しだいにこれを敵視しはじめます。
汗国の脅威に立ち向かうため、ワシーリーはリトアニアと同盟を結び、その王女を娶りました。当時リトアニアはポーランドと連合を結び、ヨーロッパ最大の版図を誇る強国だったのです。
けれど、この同盟は双方の違反によって有名無実化。リトアニアは兵をおこしてモスクワ大公国の西部諸領を奪い取りました。
一方、汗国は一時ティムールの侵入によって弱体化するも再興。リトアニアと汗国の両方を敵に回したのではたまりません。結局ワシーリーは汗国に貢納を再開することになりました。
そんなわけでゲーム開始時、モスクワは汗国の属国です(これにより、モスクワの収入の半分は汗国に上納されます)。ワシーリーは48歳の当年まで身を労し骨を砕いて馬上に諸国を往来し、しかも殆ど何の得るところもなく生涯を終えようとしています。時に西暦1419年。
さていくつかのデータを見てみましょう。
まずワシーリー。
各能力は星の数であらわされます(最大五つ星)。因みにこの能力は必ずしも君主個人の能力のみを意味しません。たとえばある王が金銭感覚がなくて部下を絞首台に送るのが好きで見境のない女好きでも、その治世に有能な宰相のため国が富み栄えたならば、この王様の内政能力は高くレーティングされるのです(例:ヘンリー八世)。
ワシーリーの能力は外交5、内政4、軍事4と極めて優秀です。なお、「軍事」は国王が軍隊を指揮する能力ではなくこの国王の代にどれだけの速度で軍事技術が進歩するかをあらわします。
次にワシーリー配下の将軍ピョートル。
このゲームには史実に準拠した将軍と架空将軍とが存在します。架空将軍の能力は原則として一律です。
実在将軍は往々にして架空将軍よりも優秀ですが、もちろん例外もあります。
架空将軍ピョートルの能力値は以下の通り。
Movement 2:
どれだけ多くの兵を飢えさせることなく連れて移動できるかをあらわします。2が平均です。
Fire 2:
野戦は射撃戦→白兵戦の順で解決されます。射撃戦の指揮能力は2が平均です。
Shock 2:
白兵戦の指揮能力。2が平均です。
Siege 0:
普通は0で、これが1付いている将軍は都市攻略の名手です。ゲーム中の最高はヴォーバンの4。
全体としては、あたりまえですが、平凡です。よく言えば、将軍として中世の戦争芸術には一通り通じたバヤール(封建領主)であると申せましょう。
次にモスクワ大公国の領土。
赤いところがそれです。ここでいう赤は別に共産主義とは関係なく、スラヴの伝統をあらわすものです多分。スラヴ諸語では赤と美というのは語源が同じで、中世スラヴ諸国は往々にして赤を旗じるしにしているのです(おかげでゲーム中ではリトアニアの旗とモスクワの旗がまぎらわしいのです)。そして他のスラヴ諸国でなくモスクワに赤があてられているのは今後の躍進に期待してのことです多分。期待に応えたいものですね。
モスクワ大公国の領地は実に3エリアを占めます。累代の大公の、夥しい金袋を積み上げ教会を買収して主教座をモスクワに移し金帳汗国の大汗に平身低頭し汗国の使者が来ると大公手づから馬上の使者に馬乳酒を献じ一滴でも酒が馬の背や尾にこぼれるとこれを自分の舌でなめ取ってきれいにするという外交がこの広大な領地を現出せしめたのです。
そして拡大図
西南にある夢のように壮麗な大国がリトアニア大公国。東南にある悪夢のように巨大な大国が金帳汗国です。
公弟ガーリチ公ユーリー「いかがでしょう閣下」
大公ワシーリー「うわーだめじゃーバブー」
弟「おちついてください閣下。どっちも国内のことで手いっぱいの上、貧しいわが国の領土を『固有の領土』としていないのでめったに攻めてはきません。そしてわれわれには未来があります。400年チョイ後のゲルツェンもこんなことを言っています。
『国の中心部と」
その最も荒廃した地方に
権威もなく 名も知られていないが
しかしロシアの首都たらんとする不遜な意図をもった
新しい都市が勃興しつつあった
もみの林の奥深くにかくれていたこの都市は
いかなる未来をも持っていないかのように思われた
しかしまさにこの地において
ロシアの生活の中心的な結び目が作られたのである』『過去においてかくもみすぼらしく
現代においてかくもわずかしか知られていない
これらの民族が
未来にたいするなんらかの権利をもっているであろうか?』『過去において何もしないで
ただ多くの苦しみだけをへて来た民族が
すべて必ず未来をもつとは
われわれはけっして考えていない』『しかし彼らのうちのつぎのような民族――
すなわち肩書もなく招待されることもなしに
諸国民の大集会において勇敢におのが席を占め
歴史への参加を強行するところの民族――
ならば未来をもつことができるであろう』
大「おまえタイムパラドックスなことにくわしいな。そらそうとわしはやるきがでたぞ」
弟「では大公国百年の安寧のために何をいたしましょう」
大「うむ、全ルーシ(ロシア)の統一のために最大の障害となるのはどこだ」
弟「あっはっは、何を初歩的なことを閣下」
さて、このゲームの経済システムを説明する必要があります。
このゲームで国家が収入を得る方法は大別して2つあります。領地経営と交易です。
領地経営は簡単で、生産力の高い土地を支配して建物を建てればよろしい。
また、交易収入は交易拠点となっている商業都市に商人を送りこむことで得られます。交易拠点は生産力も高いこと、言うまでもありません。
さてバルト海沿岸の三つの経済中心と、その勢力圏を見てみましょう。
左:メクレンブルク領リューベック
ハンザ同盟都市群の親玉。後にトーマス・マンが生れたり『銀河英雄伝説』でミュラーの旗艦の名前として登場したりします。
中:ドイツ騎士修道会領リガ
これまたハンザ同盟を代表する都市。
右:ノヴゴロド領ノヴゴロド
中世ノヴゴロドは南のキエフとならび、ルーシを代表する大都市でした。ノヴゴロドの商人および河賊(両者がどれだけ重なっていたかは定かでありません)はルーシの水系をわがもの顔に往来しておりました。
因みに数字の117(1)は、ノヴゴロドは117の交易収入を生んでおり、そのうち1がモスクワ大公国の商人たちに流れこんでいるということを意味します。
そしてこのゲームの1418年シナリオでは、国家選択画面で最初に表示されるおすすめ国家に、ノヴゴロドはあってもモスクワはないのです。
これは要するにノヴゴロドがモスクワのルーシ統一の障害となっているのではなく、モスクワがノヴゴロドのルーシ統一の障害となっているということを意味します。
弟「いかがでしょう閣下」
公「うわーだめじゃーバブー」
弟「おちついてください閣下。われわれには利点があります。それはノヴゴロドはおいしい土地なのでまわりの国が攻めてくるということです」
公「だいたいわかってきたぞ。あとは口実だけだな!」
弟「口実はすでにあります。ノヴゴロド市はモスクワ固有の領土です」
公「最低にウソくさい台詞じゃのう……」
我らが主の年1419年
デンマーク、スウェーデン両国はノヴゴロドを侵した
ヴェーチェ(民会)を招集する鐘は鳴り響いた
ヴェーチェに居並ぶ貴族たちの意見は二つに割れた
モスクワを友として頼るべきか
あるいは自力のみを頼るか
だが
神を知らぬカトリック教徒の進撃は急だった
背に腹はかえられぬ
モスクワに助けを求めるのだ
モスクワへ使者は遣わされた
返答は次のように読まれた
「なんじらはウシクイ(河船)を操って諸都市を劫略し
多くのキリスト教徒を回教徒の奴隷に売った
天人ともに許さざる所業
大人しくヴェーチェの鐘をモスクワに渡さばよし
しからずんば火と剣が返答しよう」
モスクワ軍、ノヴゴロド領コラ半島へ進軍
画面が白いのは雪がふっているからです。
この状態では兵の損耗ははなはだしく、大軍をもって移動すればするほど餓死者・脱走者・戦病死者が多くなります。従って架空将軍ピョートルは3000と号する(あくまでも号するですからね)騎兵のみを連れてコラへ向いました。
いま北フランスとか北イタリアでは銀の鎧に金襴の陣羽織を着た騎馬武者がはなばなしい合戦をやっていますが、このテの戦争は1419年のルーシではおこりにくいのです。
特に問題なのは、ノヴゴロド諸領に対する攻城戦です。これが冬まで長引くとモスクワの虎の子の兵力は一瞬でオシャカです。これが北フランスとか北イタリアならともかく、ルーシの戦争では必ずや「Siegeが1以上ある将軍」が欲しいところなのですが……
弟「ははは、おまかせください」
ぱぱらぱぱらぱー。
モスクワ最初の史実将軍ガーリチ公ユーリーが登場。
能力は3-2-4-1となかなかの名将です!
公「おおお、おとーとよー」
弟「いやそんな大鉄人17みたいなこと言わんでください」
公「春だ! 軍を率いてオローネツを討て」
ノヴゴロドの軍がノヴゴロド近郊でデンマーク、スウェーデン、トヴェーリの軍と一進一退をくりかえす間に、ユーリー率いるモスクワ軍は周辺の諸領を攻略します。
ついにモスクワはノヴゴロド領をすべて占領。
さて、この状況下においてモスクワはノヴゴロドを併合できるか。できないのであります。
このゲームにおいて国家を併合するには、まず相手を1エリアまで減らして「取るに足りない小国」として征服するか、あるいは属国としてから外交的に征服するかの2つしかありません、原則として。(アメリカ・インディアン国家に対しては全土を征服するだけで併合できたりします。いい気なものですね)
それでもモスクワは広大な領土を手にしました。
ノヴゴロドはいまや1エリアを占めるだけの都市国家です。これを滅ぼすのは赤子の手をひねるようなものではあるのですが、いったん和議を結んだからは5年間は戦争をふっかけられません。さてどうするかと思っていると、南のトヴェーリがノヴゴロドを攻め滅ぼしてしまいました。
1423年のルーシ
赤がモスクワ領、緑がトヴェーリ領
公「わしのわしのノヴゴロドが」
弟「いや閣下、これはピンチではなくてチャンスです」
そうです! ノヴゴロドとは和平条約がありますがトヴェーリとは条約がありません。いまやモスクワは好きにトヴェーリを殴れるのです。
公「そういえば父ちゃんが」
弟「ああ、そういえば父ちゃんが」
ここで回想入ります。
物語がゆきづまると過去編になるのはグラップラー刃牙とか風と樹の詩とかいろいろな作品でみられる傾向です。
ワシーリー兄弟の曽祖父イワン・カリタは平和主義者でロマンチスト、好きなものは貯金と讒言という、どちらかといえば問題のある人物でした。汗国とトヴェーリが争ったさい、讒言によってトヴェーリの公親子を汗に処刑させたのは彼です。
ワシーリー、ユーリー兄弟の父、先代のモスクワ大公ドミトリー・ドンスコイは、トヴェーリ公を宴に招いて投獄し服従を要求しました。かろうじて脱出したトヴェーリ公ミハイルは、その後長らくモスクワを不倶戴天の敵として戦うことになります。
(回想終り)
公「わかった、ということはトヴェーリはモスクワに恨みを抱いているはずだ。いますぐ予防的攻撃をしかける必要がある。行け弟」
弟「閣下だんだんこうばしいキャラになってきましたな。そらそうとちょっとこちらをごらんください」
さて、ここらへんでこのゲームの政治システムをご紹介しましょう。
このゲームでは国家の政策は8つの象眼であらわされます。
Plutocracy-Aristocracy:商業資本家を重んじるか貴族を重んじるか。
Decentralization-Centralization:地方分権か中央集権か。
Narrowminded-Innovetiveness:偏狭か開明的か。
Free Trade-Mercantilism:自由貿易か保護貿易か。
Defensive Doctrine-Offensive Doctrine:防御戦術を重視するか攻撃戦術を重んじるか。
Naval-Land:海洋国家か大陸国家か。
Quantity-Quality:兵の量を重んじるか質を重んじるか。
Free Subjects-Serfdom:臣民は自由民が多いか農奴が多いか。
つまりモスクワ大公国は
Narrowminded-Innovetiveness:偏狭か開明的か。
です。
このゲームにおいて開明的であることはテクノロジーの発展速度に大きな影響を与えます。じゃあ偏狭で退嬰的な文化にはどういうメリットがあるのかというと、未開の土地に送りこむべき開拓者が増えるのです。彼らが宗教的熱情に燃えて勇躍、神に与えられた土地を開拓に行くのか、故郷にあいそをつかしふさぎの虫にとっつかれて彼方の野へ歩き出すのかは謎です。ロシアなら後者だろうって気もしますが。
さて現時点でモスクワが開拓者を送りこむべき土地はコラ半島ぐらいで、「シベリアの扉」はまだ開けていません。となればここは開明的であるべきでしょう。
Innovetivenessの+をクリックすると、社会の安定度が1段階減ります。社会の安定度が減ることは叛乱確率の上昇につながります。しかしまあ国家が「小国寡民」であり、かつ国内の宗教や民族が同一であるうちは恐れるに足りません(大国だと目を覆わんばかりのありさまになりかねないのですが)。変らなきゃ! レッツ構造改革!
モスクワはこうして開明への第一歩を踏み出しました。おそらく蒙古のサライ、あるいはチェコのプラハからやって来た異邦の僧がモスクワの寺院で何事かを伝えつつあるのでしょう。
そんなことはさておき、1423年モスクワは「ノヴゴロドの脅威」は去ったと見て金帳汗国からの独立を宣言。トヴェーリと本格的に対峙するかまえとなります。
けれどもこの時点でモスクワの兵力は6千、対するトヴェーリは2万。まともにあたっては勝負になりません。
しばらく兵を蓄えるワシーリー兄弟でしたが
公「うぐわー」
1425年、ワシーリー病没。享年54歳。
後継は10歳のワシーリー二世が立ちます。
(「ワシーリー二世ワシーリエヴィチ、盲目公」につづく)