近鉄オリックス合併についての断章 2004/7/11
 
 

長い長い長い前置き

 私はかつて阪急ブレーブスのファンでした。
 生れ育った土地は阪急沿線でなく、かつ田舎でしたので、日本シリーズになってクラスで自分以外誰も知らないブレーブスの選手たちが暴れ回るのを見て、なにやら根拠のない選民意識にひたっていたものです。
 今にして思うと野球ファンであり阪急ファンであることで
 (世の中にはフェアなゲームというものがあるのだ)
 (戦略を持つ者は時として勝つことがあるのだ)
 (そして何が違っても優勝の価値だけはセパで同一なのだ)
 といったことを学んだように思います。

 そののち東京に出て1987年にはじめて阪急百貨店というものに行ってみたところ、野球帽は巨人と中日のものしかありませんでした。このとき翌年に何が起きるのかを理解しておくべきだったと、今となっては思います。
 翌年何が起きたかというと要するに阪急が身売りしたのです。
 買い取ったオリエントリース(のちにオリックス)宮内社長は「これでうちの企業も有名になった」と言っておりました。かような発言ができるのは余程の大人物であると思ったものです。

 こうして阪急ブレーブスは阪急でなくなり、やがてブレーブスでもなくなってブルーウェーブになりました。阪急ブレーブスの大して多くもなかったファンは、ブルーウェーブのファンになったり、ならなかったりしました。チームに関係なく、むかし阪急にいた選手を応援しつづける人もおりました。自分はというと、ファン止めたつもりだったのに因果なことにブルーウェーブのレギュラー陣のことは大方説明できるのでした。
 その後いろんな紆余曲折を経て、オリックスブルーウェーブはたいそう弱いチームになりました。

 世紀もかわって2002年、球団は新監督として西武黄金時代のチームリーダー石毛を迎え、乏しい資金の中で再出発を図っていました。
 開幕前、新監督は七色の怪気炎を吐きます。ある解説者に
 「田口ら主力選手が抜けて大丈夫ですかねえ」
 と問われて、答えて言いました。
 「田口らの抜けた穴は、もうコンクリで埋めて基礎工事をして、その上にオリックスのテナントビルが建つぐらい大丈夫」
 結論から言うと少しも大丈夫でありませんでした。開幕から連敗を喫した翌日、石毛監督はロッカールームに現れるや言いました。
 「おれは今日ここに来る前に本社に行って、オーナーに今の日本経済について話をうかがった。完全失業率5.5%の世の中で、野球のできる幸せを思い知れ」
 滅裂の言というべきでした。無論これは石毛監督が滅裂な頭をしていたわけではなく、滅裂の言を吐かざるを得ない状況だったのです。この日チームが連敗記録をさらに更新したことは言うまでもありません。

 シーズンを終えて39年ぶりの最下位。さらに翌年も最下位を激走、ドロナワ的に石毛監督のクビを切ったものの成績は上を向きません。
 この年から球場の命名権を売却、これまでグリーンスタジアム神戸と言っていた球場(それは最高の球場と最悪の立地をかねそなえたものだったのですが)はめでたくヤフーBBスタジアムと呼ばれるようになりました。結果、球団は心ない野球ファンから「球場がヤフーBBだけあって、よく切れる、つながらない打線、おまけにフロントの対応が悪い」などと言われるに至りました。
 シーズン終えて二年連続の最下位。同じことを三度繰り返すわけにはいかない。オリックス本社は流石に動きました。
 新しく球団社長にオリックス本社の小泉氏が就任。
 新社長の記者会見での第一声は
 「結果から見るとチームは弱いと言わざるを得ない」
 正確な認識というべきでした。
 新社長はゼネラルマネージャー構想を発表、阪神ドン底時代の辛酸をつぶさになめた中村勝広氏が就任。
 小泉社長――中村GM――伊原監督ラインは次々と新構想を打ち出します。少なからぬブルーウェーブファンは、新体制に期待するところ大でした。

 「こんどからドラフト指名選手には契約金払うらしいぞ」
 「ばんざーい」
 「しかもこんどの社長は球場で野球見たことあるらしいぞ」
 「ばんざーい」
 「しかも去年物凄い勢いで物凄いエラーを連発したオーティズとブラウンをファーストとDHへ転向させるらしいぞ」
 「ばんざーい」
 「流石に野球見たことある人は違うなあ」
 「世の中捨てたもんやないなあ。こんなこともあるんやなあ」

 負けがこんだ兵隊は視野狭窄に陥ると申しますが、なあに負けがこんだファンだって陥るのです。
 彼らの視野の外に近鉄バファローズという球団がありました。パリーグで一番長いあいだフルネームのかわっていない球団で、いまだに日本一になっていない唯一の球団で、勝負強いんだか弱いんだかわからない不細工なバッター連中が物凄い勢いでバットをブリブリ振りまわし、わが日本国のごく一部の人間にえらく愛されている球団でありました。
 ここの球団社長と電鉄本社社長がある日とつぜんテレビに出てきて言ったのです。

 『わが近鉄球団はオリックスとの合併を決定した』
 『球界のことは球界の方がお考えになることだ』(*)

(*)……この部分、自分の記憶の中で語の端々がねじまがっておりますが、大意は伝えていると思います。毎日新聞によれば正確には次の通り。

 ――合併が実現すると1球団減り、球界再編に進むと思うが。
 山口 野球界全体の問題であり、私どもが意見を述べる問題ではない。
 
 

 ふうん。
 
 

 その後いろいろなことがありました。
 近鉄バファローズの命名権売却を拒否していたオーナー会議はなぜかこの合併をすんなり承諾、球界では急に「もう2つ球団を合併させて10球団1リーグ」という話が出ます。そして選手やファンに説明はなされないままです。
 この時にあたってふしぎに思うのは、自分がそれほど怒っていないことです。
 思うに阪急がなくなってブレーブスがなくなるのを経験しているせいかもしれません。
 何が言いたいかと申しますと、いやそのつまり、よくないことですね慣れるというのは。
 
 

断章1

 思うにいま仮に少年サンデーで『男どアホウ藤井寺』というマンガをやっていたら大変なことになるでしょうね。

 藤村藤井寺は熱狂的近鉄ファンの祖父に名づけられ近鉄の救世主たるべくどぐされ南波高校の野球部で奮闘
 ドラフトで近鉄に指名されず巨人に指名されたので東大にカンニングで入学
 明大一場投手との一戦を迎えた前日、NHKで衝撃の報道が

 「おい見ろ藤井寺」
 「何じゃい、わいは明日の明治のキャラメル野郎との決闘を前にしてイメトレちゅうやつに忙しいんじゃ」
 「いいから見てみろ、NHKつまり日本放送協会でたいへんなニュースをやっている」

 『わが近鉄球団はオリックスとの合併を決定した、球界のことは球界の方がお考えになることだ』

 があーん(書き文字)
 「わいの、わいの一生、わいの近鉄バファローズが、こんなこんなことで」

 ……なんだか面白そうな気がしてきました。
 
 

断章2

 さきに触れましたが、少なからぬブルーウェーブファンは、小泉社長に期待するところ、けっこう大きかったのです。
 そしてその一年目からこんなことに。
 しかもこないだの「小泉社長からBWナインへの事情説明」というのはえらいもので

 『必ず説明はする
 君たちはプロなのだから義務を果せ
 私を信じろ』

 いや、その。どこから突っ込んでよいやら。

 思うにヤフーBBスタジアムの一塁側ロッカールームには、人に滅裂の言を吐かしめる何物かがあるのかもしれません。
 何かこう風水的に。
 
 

断章3

 知人の近鉄ファンは憑きものが落ちたような晴れやかな顔で
 「私たちの愛してやまない日本は豊かな進んだ国で、たくさんの娯楽があるのですから、来年からは空いた時間でガンバやセレッソを応援してもいいですし、草野球にうちこんだり、古典をひもといたり、アニメイションに萌えたりするのも有益でしょう」
 と言っておりました。
 つまりこれはすごく怒っているのだなと思ったものです。

 また知人の知人(つまり赤の他人)の近鉄ファンは、ワールドワイドウェブ上で呼びかけあって集まった牛者数人で、東京ドームの読売ヤクルト戦の観客を相手に、合併反対の署名を集めに行ったそうです。
 そうして大喜びで帰ってきたそうです。
 「988人ぶんも集まった」
 
 

断章4

 こうなる前にやっておけばよかったことは百も思いつきますが
 こうなった後でやれる方法というのはたぶん2つしかなくて

・前向きな方法
 パリーグの苦境を見た野球機構がシステムの再編に乗り出す。放映収益金の結集&均等分配、サラリー高騰を防ぐための完全ウェーバー式ドラフト制度、ルールファイブドラフト(二軍選手の再ドラフト)、他国との間のFA補償規定の確立等。足りなくなった1球団ぶんの枠は、四国ないし東北にパリーグの新球団を発足させ、カープ発足時と同様に残り11球団から選手を引き抜いてよいことにする。

・後ろ向きな方法
 10球団1リーグ制で再出発。ヨリ経営を楽にするために高額選手は積極的にメジャーに放出し金銭的補償を得る。

 どちらの場合もモデルはJリーグというところが面白いですね
 (面白くありません)
 
 

断章5

 ちょっと前にイランの英字新聞に載っていた社説。
 「合衆国によれば、ムスリムがムスリム国家のことに口だしするのは分を超えたことです。
 してみると我が国が合衆国に直接働きかけるのは得策でありません。
 そして直接的アプローチが得策でない場合、やるべきはアプローチしないことではなく、間接的にアプローチすることでしょう」

 さて思うに

 12球団のオーナーによれば、野球ファンが野球のことに口だしするのは分を超えたことです。
 してみると我々が各球団に直接働きかけるのは得策でありません。
 そして直接的アプローチが得策でない場合、やるべきはアプローチしないことではなく、間接的にアプローチすることでしょう。

 そういうわけで、自分は選手会によるストライキを支持します。
 まあこの件に関しては異論ある方も多いと思いますが、個人的には今後十年プロ野球を見る為なら、今年一年見られなくても我慢できます。

 一方で(ストライキも含めた)集団としての交渉をやらない場合、あくまで個人事業主として行動するという手も、特に一流選手には残されているのだろうなあ、と思います。

 私は宮本なり城島なりがアテネの決勝で皆に
 「我々の帰るところがあるかどうかは知らない。
 おのおの自分の生存(*)の為に全力を尽せ」
 と言って水杯を交すシーンを思うだけでわくわくしますね。

(*)……メジャーとかでの
 
 

 それもまたありかもしれません。
 
 

その後の追記(2004/9/26)

 その後いろいろありました。
 結局、合併は承認され、その上で新規に一球団の参入を認める方針でいこうということになりました。
 日本はアテネで決勝に進まず三位決定戦へ進みました。
 一場はえらいことになりました。
 ブラウンはシーズン半ばにクビになりました。かつてのアリアスやセギノール同様、いける選手だと思います。どっかが獲らないものか。
 オリックス宮内オーナーは、9月末の段階で近鉄オリックス合併について「メリットは無かった」と発言しています。正直です。
 そして今のところ自分が一番気になるのは、新球団オリックスバファローズが、ドラフト指名選手に契約金を払い続けるかどうかです。
 
 

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