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漸降法 ぜんこうほう anticlimax
『天正やおよろず』1巻137ページ(稀捺かのと/エニックス GANGAN WING COMICS)
ライル シュタタタタタ)
↑だんごを素早く作る音
観衆 おおー!!速ーっ!!」
ライル よし!!
このくらいでいいか」
観衆 おおー
すごい量だー」
ライル この中で
一番いいのは…」
(じっ…)
観衆A おお さすが
ライルくん!!
観衆B さすが 職人!!
観衆C さすが こり性!!
観衆D さすが 神経質!!
観衆E さすが 苦労人!!
観衆F さすが 胃炎持ち!!
ライル だまってろーっ!!!
(集中 できんわー!!)」
『天正やおよろず』1巻137ページ
(稀捺かのと/エニックス GANGAN WING COMICS)

 《定義》

漸降法は、だんだん言葉を弱めていくレトリックです。
つまり、次第にトーンダウンしていくというものです。言いかえれば、表現を、強いものから弱いものに、または深いものから浅いものに、もしくは大きなものから小さなものに、段々と調子を弱めるものです。ようするに、ことばの順を追って、次第に勢いをおとろえさせるものです。

この「漸降法」の例としては、
十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人
といったようなものが、あげられます。順を追ってだんだんと、トーンダウンしている表現だといえます。

なお。
この「漸降法」は、まれに「下降的漸層法」と呼ばれることもあります。



 《例文を見る》

引用は、『天正やおよろず』1巻から。

暦は天正、のちに安土時代と呼ばれるころ。この時代には、「喰(じき)」と呼ばれる魔物がよみがえろうとしていた。
その「喰」に立ち向かおうというのが、このお話のメインの登場人物。主人公の「ライル」と、「薙刃(なぎは)」「鎮紅(しずく)」「迅伐(はやぎり)」という3人の少女。

なのですが、これまた引用した部分は、そういった設定とはあまり関係ありません。
では、一体どういう場面なのかというと、次のようになります。

甘味処「さくら亭」で、リニューアルオープン記念目玉イベントがはじまった(130ページ)。このイベントは、素人が「だんご」を作って、そのできばえを競争する、というもの。

「ライル」たちメインキャラの4人も、このイベントに参加することにする。一位を勝ち取った人に贈られる景品になっている「豪華温泉ご招待」。これに、つられたみたいです。

で、4人それぞれの作りかたを見てみる。すると、「ライル」が「だんご」を作る速さは、ものすごい。たちまち、すごい量になる。

それを観ていた人々の声が、「漸降法」になっていると考えます。
はじめは、
おお さすが
ライルくん!!
というように、ほめています。ですが、
さすが こり性!!
のあたりから、段々と雲行きがあやしくなっていきます。で、
さすが 神経質!!
というあたりまでくると、もうこれは「ほめことば」ではなくなっています。そして最後には、
さすが 胃炎持ち!!
とまで言われてしまいます。

このように、「さすが」とほめていたことばが段々と弱まって、最後には「胃炎持ち」とまで言われてしまいます。このことばのならび方を、「漸降法」とします。




 《レトリックを深く知る》


 【1.「漸層法(広義)」との関係】

この「漸降法」は、「漸層法(広義の)」の小分類のひとつに当たると位置づけることができます。

つまり。
おおきく、「漸層法(広義の)」と呼ばれるレトリックには、
漸層法(狭義の):ことばを、段階を追って強めていくもの(もっとも典型的な「漸層法」)
漸降法:ことばが、段階を追って弱まっていくもの
という、2つのパターンがあるということになります。

くわしくは、「漸層法(広義の)」のページを、参照してください。


 【2.「漸層法(狭義)」との関係】

また「漸降法」は、ちょうど「漸層法(狭義の)」を逆転させたものにあたります。

そのため、原理としては「漸層法(狭義の)」と「漸降法」は、同じようなものということができます。したがって、表現によっては「漸層法(狭義の)」なのか「漸降法」なのか、はっきり区別するのが難しいものもあります。

ですが。
いちおう理屈としては、つぎのようなことがいえます。それは、
  • 漸層法(狭義の)」 :「伝えたいメッセージ」のレベルが、だんだんと強くなっているもの
  • 「漸降法」 :「伝えたいメッセージ」のレベルが、だんだんと弱くなっているもの

――『魔法先生ネギま!』1巻31ページ(赤松健/講談社 少年マガジンコミックス)
アスナ そ そんなぁ
アタシ こんな子
イヤです
さっきだって
イキナリ失恋…
いや 失礼な
言葉を私に……」
ネギ いや でも
本当なんですよ」
アスナ 本当
言うな!」
大体
あたしは
ガキがキライ
なのよ!
あんたにみたいに
無神経で
チビでマメで
ミジンコで…
ネギ むーっ)
――『魔法先生ネギま!』1巻31ページ
(赤松健/講談社 少年マガジンコミックス)
ということです。つまり、「伝えたいメッセージ」を基準として考えることになります。あくまでも、そのことばを発言した人、書いた人、表明した人が、「その度合いが高い」とおもっていること.。それが、わかれ目となるわけです。

このことを、もうすこし分かりやすくするために。
ひとつ、例をあげてみます。

引用は、『魔法先生ネギま!』1巻から。

主人公は、ネギ。10歳。イギリスで、魔法使いの修業をしていた。
そして、その修業の締めくくりとして。日本で英語の先生をするように、という指示が出る。

そういったわけで。わずか10歳なのに、先生ということになった。しかも、日本で英語を教える相手は、うら若き女子中学生。

そして、アスナ。彼女は、その「うら若き女子中学生」のうちの一人。そして、かいつまんでいえば「年上が好き」。それは、ウラを返せば「ガキがキライ」ということになる。

そのこともあって、ネギ(10歳)が担任になると知って、猛烈に抗議して怒りをあらわにする。それが、引用のシーンです、
チビでマメで
ミジンコで…
ま、つまり。「ガキがキライ」なのです。

ここで問題としたいのは。
この表現が、いったい「漸層法(狭義の)」と「漸降法」の、どちらであるというかということです。

結論をいえば。これは、「漸層法(狭義の)」にあたります。つまり、表現のトーンを次第に強くする、というパターンのほうなのです。

つまり、ここでアタマに置いておかなければいけないことは。けっして、表現している中身を見て「背が低くなっている」ということに、まどわされてはイケナイということです。

もちろん。
「チビ」と「マメ」と「ミジンコ」の3つで、大きさをくらべれば。あきらかに「だんだんと大きさが小さくなっている」。いいかえれば「だんだんと背が低くなっている」はずです。

ですが。
ここで、アスナが主張していることは。あくまで、「背が低い」ということ(を非難するというもの)です。ちょっと分かりにくく書けば。アスナが言いたいのは、「背の高さ」ではなくて「背の低さ」なのです。

したがって。ここで使っているアスナのセリフは、
×) メッセージのテーマとなっている「背の高さ」というものが、だんだんと弱くなっている。
と考えて、「漸降法」にはしません。

そうではなくで、
) メッセージのテーマになっている「背の低さ」というものが、だんだんと強くなっている。
と考えて、「漸層法(狭義の)」というほうになります。


 【3.漸降法の効果】

ま。
いちおう、上に書いたようなかんじで分けることになります。

…ですが。
このように考えると。つぎの2つのことがいえます。

  1.じつのところ、「漸降法」にあてはまる例は、ほとんどない。

ほとんどのばあい、人はなにか自分のもっている考えかたを伝えるために、ことばを並べます。そして、よりよくメッセージを伝えるためには、いちばん最後にくることばを、いちばん印象的にしたほうがいいのです。

そしてそのためには、「だんだんと調子を強くする」という方法をとることになります。それはつまり、「漸降法」ではなく「漸層法(狭義の)」になるのです。

そのため。「漸降法」は、ほとんど見かけません。

  2.「漸降法」は、表現をおもしろくする効果がある。

というか。「漸降法」には、表現をおもしろくする効果くらいしかありません。

いちばん最初に例文としてあげた、
十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人
というのも。世の中の考えかたに、からかい半分の視線を向けているといえます。

『レトリックの体系』などを書いている中村明氏が、いろんな本で「漸降法」の例としているのは。
俺は浮気はしない たぶんしないと思う しないんじゃないかな ま、ちょっと覚悟はしておけ
というもの。もちろん、さだまさしの「関白宣言」にあるフレーズです。(作詞・作曲:さだまさし)

この例文でも。やっぱり、滑稽さを出してくるといったものです。というかこの歌詞を、だんだんトーンダウンして滑稽さを出している「漸降法」と読むことのできない人。そういった人たちが、この歌詞にたいして騒動を起こすことになる。

とにかく。
この「漸降法」では、コミカルさを出すということはできます。ですが、マジメに語ることはできません。


 【4.ちょっとした用語の不統一について】

なお、
  • 「漸降法」
  • 「反漸層法」
  • 頓降法
という日本語のレトリック用語。そして、それに対しての、
  • bathos
  • anticlimax
という英語のレトリック用語。
この用語をどのように区別するかについては、統一されていないように思われます。そもそも、日本語のほうには3つの用語があるのに、英語のほうには2つしか用語がない。そういったことからみても、まだ統一された考えかたがない、ということを物語っています。

この点についてこのサイトでは、次のように区別することにします。

頓降法」(=bathos)は、ことばが段々と盛り上がっていったあとに、最後で急にストンと落とすというレトリック。
「漸降法」(=anticlimax)、は、ことばが段々と弱まっていくというレトリック。
そして、あまってしまった「反漸層法」については、「漸降法」の別の呼び方だということにします。

ただしこの区分は、あくまでも、ひとつの考えかたです。他の人が書いた本だとか、他の人が作ったサイトでは、違った説明がされている場合があります。
ですので、その解説をしている人が、どのような区別をしてレトリック用語を使い分けているか。そこのところを、よく見きわめて下さい。


 【5.ちょっとした用語の不統一について――つづき】

また、『レトリック事典』によると、
anticlimax
というレトリック用語には、この「漸降法」とは違った意味もあるらしい。つまり、まるで「山」のように、だんだん登っていって頂上に着いたら今度はだんだん降りてくる。そういったものも、anticlimaxに含めるらしい。

…分類するのが、さらに混乱するのですけれども。
関連項目→列叙法漸層法(広義の)漸層法(狭義の)、連鎖漸層法、頓降法飛移法変態法、頓旋法、転折法
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