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| 虚辞 きょじ expletive | ||||||||||||||||||||||||||||
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| ――『姫ちゃんのリボン』1巻58ページ (水沢めぐみ/集英社 りぼんマスコットコミックス) |
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| 虚辞は、実質的な効果のないことばを、形式的につけ加えるというものです。おもに、リズムを整えたり、口調をそろえたりするときに使われます。 |
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| 「虚辞」の大きな特徴は、「単語としての意味が、ほとんど何もない」というところにあります。つまり、カタチだけは存在しているけれども、内容がゼロにひとしいものになります。 | |||||
| 「虚辞」では、情報量がほとんどゼロのことばが、あえて配置されます。そのため、あること自体がバカらしいものになってしまいます。 | |||||
| 単語の持っているはずの「意味」からは、ですが、「口調を整える」といったような「音の面」を考えて使われることがあります。似た音を続けることによって、調子や韻律をなめらかにする効果があります。 | |||||
| 意味のない、バカらしいことばを口にするという結果として。相手をからかっらり、茶化したりするといったことがなされることがあります。 | |||||
| 伝えようとしていることばを、メインのものとして。そのメインのことばと、リズムが合っていたり、もしくは音が似ているようなことがを使う。それが、「虚辞」となります。ポイントは、あくまで「意味のないことば」だというところです。 | |||||
| 「ちぇっ!」とか「くそっ!」とかいったもの。こういった、特別に意味を持っていないような「間投詞(感動詞)」も「虚辞」に分類されることがあります。英語で“Shit!”、ドイツ語で“Scheisse!”。みんな、汚らしいことばです。 | |||||
| いままで書いてきたことからも、お分かりのように。「虚辞」は、お遊びのことばだったり、からかったりするときのことばです。ですので、けっしてオモテ向きのことばではありません。 | |||||
| この「虚辞」は、話しことばで用いるのがふつうです。つまり、口から出すことばの流れの中で使われるものです。逆にいえば、書きことばでは使わないということです。マンガのばあい「ふき出し」部分は「話しことば」が書かれるものなので、「虚辞」が使われることがあります。 | |||||
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| 右の引用は、『姫ちゃんのリボン』1巻から。 ちょっと古いマンガですけれども。だけど、でも「虚辞」は、一見すると「コマの無駄づかい」のように思われる。だから、「虚辞」に対して、いくつもコマを使っているのは、めずらしい。例を見つけてくるのが、タイヘンなんです。 なので引用は、ちょっと古いですが、『姫ちゃんのリボン』から。 引用した部分までのストーリーを観点に説明すると。 主人公は、「姫ちゃん」(本名は野々原姫子)という女の子。ある日の夜、リリカという女の子が、姫ちゃんの部屋の窓からやってくる。 リリカは魔法の国の王女であると言う。そしてリリカは、魔法の国の決まりで1年のあいだ、姫ちゃんを観察することになったことを告げる。 で、その代わりとして、大きなリボンを貸してもらう。この大きなリボンには、人間界の人ならだれにでも変身できる魔法の力があると言う。 で、その大きなリボンをつけて登校した日が、引用のシーン。 だから、 それにしてもさあなんてことを、親友の愛美から聞かれたりしている。でも、「だれにでも変身できる魔法のリボンだ」ということは、言ってはイケナイ決まりになっている。なので、 あ これと答えている。 …と書いたんだけど、ここらへんは、「虚辞」とは関係なかったりする。 ここからが、本題である「虚辞」の説明になります。 で、「虚辞」なのですが。 結論から先に言えば、 商売繁盛 弱肉強食であるとか、 家内安全 夫婦円満というものが、「虚辞」にあたります。 姫ちゃんのセリフのうちで、「パワー全開 気力充実」の部分までは、きちんとした意味があります。姫ちゃんが元気だということを表現していて、ごく普通の言葉です。 が。 そのあとに続いている 商売繁盛 弱肉強食というのは、このシーンでは「ありえない」表現です。ただ単に、「パワー全開 気力充実」と音の調子が似ている言葉を言っているだけです。 こういうものが、「虚辞」にあたります。 |
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| かなり細かいことになりますが。「虚辞」というレトリックは、いくつかのタイプに分けることができます。 ですので。以下では、そのあたりを見ていきたいと思います。 |
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| まず。「暴言」や「悪口」のために使われる、意味とは関係のないことば。これが、「虚辞」に当たります。 たとえば日本語では、「くそっ!」「ちぇっ!」といったもの。 「くそっ!」ということばが、もともと指していたのは「糞」のことだとおもいます。だけど、現実に「くそっ!」ということばを使うとき、ふつう「糞」とは関係がありません。 なので、「虚辞」です。 |
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つぎに。
口に出された、ことば。その音の感じは、たしかにそれっぽいイメージを引き出してきている。だけれども、そのことばの「単語の意味」とは、まったく関係ない。 つまり、音のつながりだけで形式的に置かれたことば。音の感じかたを別にすれば、ぜんぜん関係のないことば。 これも「虚辞」にあたります。 引用は、『のだめカンタービレ』から。 主人公は「のだめ」と「千秋」。 2人は、ともに同じ音楽大学に通っている。そればかりか、たまたま住んでいるマンションが隣りあわせだった。 そんなこともあり、だんだんと知りあっていくようになる。 ただし、「のだめ」と「千秋」の性格は、まったく正反対だといっていい。 「のだめ」のほうは、部屋は散らかしっぱなしだし、演奏するピアノも〈カンタービレ〉。つまり「歌うかのように、自由に演奏する」というタイプ。 ひるがえって、「千秋」。彼は、ひとことで言って完璧主義者。部屋は、雑然とした物がなく常に整理整頓されている。料理も、パーフェクトにこなす。音楽のほうは、その完璧主義っぷりが裏目に出たりすることもあるけれど。 そしてここでも1つ、「千秋」の完璧主義っぷりが顕わになる。 「千秋」のとなりに住んでいるのは、「のだめ」。そしてその「のだめ」は、衣・食・住ともに、落第点の生活を送っている。「千秋」は、それがガマンならない。 そこで「千秋」は、「のだめ」に対して「ボランティア」をはじめる。 「千秋」が料理を作り終えたころあいを見はからって、「のだめ」が「千秋」の部屋にやってくる。その「のだめ」に対して「千秋」は、作った料理を分けて食べさせてやる。こんな生活が始まったのだ。 のちに「千秋」は、これを「餌付けしてしまった」と漏らす。 で、その「餌付け」のシーンが引用の場面になるわけです。 「のだめ」は、「千秋」のつくった「ミレリーゲ・アラ・(中略)・ブロッコリ」を食べた。そのときの感想が、 「アンブレーラ!!」というもの。 これは、たぶん日本語でいう「傘(かさ)」のことだとおもう。つまり、“umbrella”(☂)だという気がする。だとすれば、「呪文料理(?)を食べた感想」としては「意味がわからない」としかいいようがありません。 なんか、言葉では言いあらわせないほどの感動を味わったらしい。でもそれは、ふつう「アンブレーラ」ということばでは表現しない。なぜなら「アンブレーラ」という単語は、おいしさ・美しさ・香ばしさといったことに結びつくような味に関する意味が、まったくないのだから。 でも。なにか、喜びの表現をヨーロッパっぽくあらわそうとすると。なにか「アンブレーラ」で、通じてしまう。音のイメージとして、なにかそういった漠然とした感情を持ちあわせている気にさえなってくる。 それがつまり、「虚辞」というわけです。 なお、細かいことを書けば。 「千秋」の作った料理の名前、「ミレリーゲ・アラ・パンナ・コン・イ・ブロッコリ」。この長い名前は、すぐそばに書いてあるように、「イタリア語」です。 そして。「のだめ」が感激のあまり口にした、「アンブレーラ」という単語。これ、じつは「イタリア語が語源になっている英語」なんです。 つまり、「イタリア語つながり」とでもいうべきものがある。だから、「似たような音」だと感じる。そんなことが、ひそんでいるのかもしれません。 英語のうちで、イタリア語を語源としているものは、1%未満といわれています。だから、英語のなかからイタリア語っぽい単語を探したら、出てきたのが「アンブレーラ」だった。いいかえれば、「アンブレーラ」という単語は、決して無作為に選ばれたものではない。「似たような音」になっているという、ちゃんとした結びつきがある。 …なんてことは、「のだめ」は考えてもいなかっただろうけれど。 |
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たとえば。
「夕焼け、小焼け」というフレーズがあります。「夕焼け」のほうについては、まったく問題がないのですが。でも「小焼け」ってなんでしょう? 『広辞苑』には、「小焼け」の項目がありませんでした。たしかに「小焼け」について、語源を探ってみることもできるかもしれません。ですが、ふだん実際につかうときには、そんな語源なんか気にしない。つまりそれは、「小焼け」ということばが「虚辞」だということです。
それから。 「根掘り、葉掘り」という言いまわしもある。 まあたしかに、「根」を「掘る」ことはできる。でも、「葉」を「掘る」というようなことは、実行できるものだろうか。 「掘る」ということばには。比喩としては、「深い部分を取りだす」という意味があるとはおもう。でも、やはり「葉」を「掘る」というのは、ピッタリこないのです。 それはつまり、「虚辞」の可能性が高いということです。 これに近い例として、『ケロロ軍曹』1巻。右にある画像が、その部分です。 ケロロが住むことになった、家の地下室。ここには、なにやら怪しい雰囲気がただよっている。 ヘンな影が、カベにあったりします。「イカすモヨウ」という感じではありません。異様です。 その原因を夏美にきいてみると、 「知らぬが仏 知ってキリスト…」とのことです。 「知らぬが仏」のほうは意味が通じる。ふつうの会話。だけれども「知ってキリスト…」って、映画のタイトル? どうみても、ここら辺の会話の内容と関係なく、「知ってキリスト」ということばが入っていると思われます。 ということで、これも「虚辞」といっていいでしょう。 なお。 このページの最初にあげた、『姫ちゃんのリボン』の例文。それも、このパターンに近いものだといえます。 |
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| これから下に書いていく例は、「むだ口」にも通うところのある「虚辞」です。 このタイプの「虚辞」では。 わりと知られているフレーズとしては、 「結構毛だらけ、猫灰だらけ」というのがあります。 伝えたいことは、「結構だ」ということだけです。では、そのあとに付いてきた「…毛だらけ、猫灰だらけ」は、なんなのか。これは、「結構」の「ケ」とか「コ」とかいう音を重ね合わせて、口調をそろえているのです。こういったのが、「虚辞」にあたります。 このあたりになると、「むだ口」というレトリック(ことば遊び)とも関わってきます。 |
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| 虚辞・虚辞法 | ||||
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| 「虚辞」という用語。伝統的に文法の世界では、これを少し別の意味で使います。たとえば、“It's raining again!”といったときの“It”は、カタチだけ置かれているだけのものです(形式的主語)。文法では、こういったものを「虚辞」と呼ぶことがあります。 もちろんこの“It”は、文を組みたてるためには必要です。けれども、この“It”に実質的な「代名詞〈それ〉」といったような意味はありません。なので、「虚辞」ということになるわけです。厳密に、この文法での意味だけを指ししめしたいときには「文法的虚辞」という言いかたをします。 |
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| むだ口、宣誓・誓言、枕詞、序詞 | |||
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| 日本語の中でつかわれる「虚辞」というレトリック。これについての解説は、中村明氏が多くの本で書いています。なかでも、いちばん紙面を割いているのは、この本ではないかと思います。 | |||
| この辞典は英語学辞典なので、挙げられている例文は「英語」です。そして、この「例文が英語だ」ということは、ちょっとやっかいです。どうしてかというと、例文がカンタンに理解できるとは限らないからです。「虚辞」というのは、「本来の意味としては用をなしていないのに置かれている」ものです。それなので、標準的な文法からはヨコにそれた英文が、「虚辞」の例文として載っているわけです。そのへんの難しさをクリアーできれば、充実した参考資料とすることができます。 | |||
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