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畳句法 じょうくほう gemination
――短編「ハート型バクダン」 『ラブリーニュース』140ページ所収(藤井明美/集英社 マーガレット コミックス)
ハルちゃんなんか
 ハルちゃんなんか

 ハルちゃんなんか
 ――――――っっ
――短編「ハート型バクダン」
『ラブリーニュース』140ページ所収
(藤井明美/集英社 マーガレット コミックス)

 《定義》

畳句法は、同じ(または、「ほぼ」同じの)文をくり返すレトリックです。

畳音法」→「畳語法」→「畳句法」という順番で、くり返す言葉が大きくなっていきます。

このレトリックの効果は、おもに伝えたいことの強調です。これは、同じことばを反復する「隔語句反復」や「畳語法」といったレトリックに共通したものだと言うことができます。



 《例文を見る》

例文は「ハート型バクダン」(『ラブリーニュース』所収)。

新しくバイトとして入ったのが、主人公の深浦有生という女の子。

彼女がバイト先に選んだところで副主任をしているのが、塚田晴哉という男の人。有生は、晴哉こと「ハル」のことが、子供のころから大好きだった。

その恋の強さは、ふつうではない。なんと「今までに5回告って 5回とも『カノジョがいる』ってフラれた」(122ページ)のにもかかわらず、それでもアタックするという強さ。6歳の年の差なんて、全く気にしない。

で、6回目の告白する。しかし、
「おまえ以外の若くてピチピチのオンナノコなら大歓迎だね」
「あーうるせーっ とっとと仕事戻れ」
(138~139ページ)
と言われ、みごとに玉砕。

その玉砕した結果が、引用のシーン。
ハルちゃんなんか
 ハルちゃんなんか

 ハルちゃんなんか
 ――――――っっ
と、「ハルちゃんなんか」と同じ文をさけんでいるのが、「畳句法」にあたります。


 《例文を見る――その2》

このページの最初に、「伝えたい事を強調する効果があります」と書きました。ですが、強調するためでなくて「呪文として同じ文をくり返す」というものを見つけました。

それは、『聖♥ドラゴンガール』(松本夏実/集英社 りぼんマスコットコミックス)の1巻85ページ。

催眠術にかかっている女子高生たちに、
「とらわれの蝶 とらわれの蝶 とらわれの蝶」
というように、「とらわれの蝶」を3回くり返して耳元でささやくと催眠術がとける、という設定になっています。


 《例文を見る――その3》

もっと、異様なほど何度も繰り返されているものとして、『美鳥の日々』(井上和郎/小学館 少年サンデーコミックス)の、4巻183ページ。

設定を説明すると長くなる。だけれど、場所の関係で必要な情報だけを説明すると、こんな感じになる。

真行寺耕太は高校1年生。不良に捕まっているところを、このマンガの主人公である沢村正治という高校2年生に助けられる。以来、耕太は正治のことを尊敬…、というよりは「好きになってしまった」のです(書くまでもないけど、耕太も正治も「♂」なんだけど)(2巻121ページあたり)。

そんなある日。耕太はちょっとした用事で、正治の家を訪ねる(この「ちょっとした用事」のほうがこのマンガの主題なのだけど)。
そこで、話しの流れで、耕太は正治の家に泊まることになる。正治のとなりで寝るという耕太にとっての緊張のシーンが、ひたすら「畳句法」で書かれています。
さ…
沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと…
沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと… 沢村さんと…
沢村さんと… 沢村さんと…」
(4巻183ページ)
これ、10回も繰り返している。こんなにくり返しているのは、やっぱり緊張感を「強調」するためでしょう。
私の目から見ると『美鳥の日々』も、レトリックがたくさん使われているマンガです。

あともう1つ、『美鳥の日々』作者について、ひとこと。

この『美鳥の日々』を描いた井上氏は、かなりの知識人だと思います。

例えば、7巻で「ケンカ野球」をする場面(7巻・DAYS 69)。
対戦しているチームの名前は、「腐露威吐」と「苦璃無斗」というチームです。暴走族のグループ名みたいな、無理矢理の当て字です。そして、「腐露威吐」は「フロイト」、「苦璃無斗」は「クリムト」という読みかたをします。

ですがこの「フロイト」と「クリムト」というのは、実在の人の名前なのです。2人とも、19世紀のドイツ語文化圏の人です。
「フロイト」はまだ有名だとしても、「クリムト」の名前がさりげなく出てくるあたり、かなりの教養のある人だと思います。

あと、『葵DESTRUCTION!』の主人公「葵」が、抜け目なく『美鳥の日々』に登場したりしています(7巻DAY70)。自分の描いた作品の登場人物を、他の作品でも登場させるというのは、よくあることなのかな?



 《補足》

訳語の「gemination」について。

やっぱり。
あえて、「畳句法」と「畳語法」とのあいだに、
  • 畳句法 : フレーズのくり返し。つまり、文とか句とかを反復するばあい
  • 畳語法 : ことばのくり返し。つまり、単語とかを反復するばあい
といった区別をつけるなら。
  • 畳句法 → gemination
  • 畳語法 → epizeuxis
というレトリック用語を対応させるのが、ふつうのようです。

たとえば。
『OED』では“epixeuxis”について、“... a word is repeated...”という説明になっています。「1つの単語(a word)」というふうに単数形で書いてあります。

このことからすれば。
“epixeuxis”というレトリック用語が使われるのは、「単語」の反復に限られる。そのように考えられているのだと思われます。

また。
『一般修辞学』とか、『美学』(バウムガルテン[著]、松尾大[訳]/玉川大学出版部)あたりを参考にしたところ。同じように“epizeuxis”は「単語1つのくり返し」、“gemination”は「フレーズのくり返し」と分けているようです。

ただし。
つぎのようなことを言うこともできます。

【1.「gemination」という用語の領域】

とはいっても。
「gemination」というレトリック用語も、「epizeuxis」というレトリック用語も、たいして違いはありません。なので、「gemination」というレトリック用語でもって、「フレーズのくり返し」と「ことばのくり返し」の両方を含めるほうが一般的です。

【2.「gemination」のスペルについて】

「gemination」は英語っぽいスペルの書きかたです。「geminatio」というふうに「n」を書かないとラテン語っぽいスペルになります。ですが、どちらであっても同じものです。こんにちでも、「geminatio」というスペルのほうも、よく使われています。

【3.「gemination」の言語学でも意味】

この「gemination」という単語。じつは、言語学では、べつの意味で用いられています。
言語学では「gemination」でもって、「子音が重なっている」というようなことを表します。漢字で書くと、「二重子音化」とかいったことになります。
たとえば、「勝った」とか「売った」ということばを発音するときに「t」という子音がダブって出てくる。こういったものを言語学では、「gemination」といいます。

ですが。

このサイトで説明している「gemination」というヤツは。あくまで、レトリック用語のほうの「gemination」です。
関連項目→反復法畳音法畳語法隔語句反復復言法類義累積回帰反復首句反復結句反復首尾語句反復前辞反復おうむ返し交差配語法トートロジー異義復言同綴同音異義類音語反復疑惑法
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