TOPへ 50音順 使う目的別(作成中) 佐藤信夫『レトリック事典』の分類 中村明『日本語の文体・レトリック辞典』の分類
 
黙説法 もくせつほう reticence
――『こどものおもちゃ』2巻19~20ページ(小花美穂/集英社 りぼんマスコットコミックス)
羽山 …お前
あいつ好きなんだっけ…?」
大木 うん!
紗南ちゃん好きだよ… ボク」
羽山 …ふーん…
…そんじゃあ…
オレたち
 【ガー】 ルだな。
【ガタタン ガタタン ガタタン
――『こどものおもちゃ』2巻19~20ページ
(小花美穂/集英社 りぼんマスコットコミックス)

 《定義》

黙説法は、ことば自体の省略はするけれども、省略されたものが何であるかは推測できるように、いわばその枠組みを残しておくというレトリックです。

つまり、「登場人物のセリフ」であるとか「行動」であるとかの、表現それ自体はカットされてしまっている。けれども、その前後の流れから、どういったことが起こったのかは分かるようになっている。そういったものが、この「黙説法」にあたります。



 《例文を見る》

例文は『こどものおもちゃ』2巻。

ここでの登場人物は、大木と羽山の2人。

主人公の紗南という女の子にたいする気持ちについて、大木が質問されたというシーン。じつは、大木も羽山も。どちらも紗南のことが好きなのです。

で、大木の返事はふつうです。けれども、その後に続く羽山の言葉。
…ふーん…
…そんじゃあ…
オレたち
 【ガー】 ルだな。
ここの【ガー】というやつは、上の画像を見てわかるとおり、電車の騒音です。それが、ふき出しにかぶっています。かぶっているもんで、「ラ」と「ル」のあいだにある言葉が見えません。

もちろん、電車の騒音で言葉がかき消されてしまったことをあらわしています。この部分が「黙説法」にあたります。

おもしろいので話のつづきを見ていくと、
(大木) 「……」「……え?」
(羽山) 「……」「きこえなかったんならいい」
(大木) 「ちょっ… ちょっと待って! なんとなくきこえたけど… …え――!?」「秋人くん!もう1回ちゃんと…」
(羽山) 「1回しか言わん」
(大木) 「あ…」
となっています。(「秋人くん」というのは、もちろん羽山の下の名前)。

さらに。
これには、さらにつづきがあります。33ページには、次の日のシーンがあって、
(大木) 「秋人くん… 昨日のことだけど…」「僕のこと『ライバル』って言ったよね…?」
(羽山) (しつこい)「きこえなかったんじゃないんか」
(大木) 「…よく きこえなかったけど… ラで始まって ルで終わるのなんて それしかないじゃん」
(羽山) 「あるだろ ラスカル ランドセル ラバーソール ラッセル 拉する」
(大木) 「あっ ホントだ! けっこーある」
(羽山) (国語辞典を手にもって)「まだある 見ろ 『襤褸』 (意味 ぼろ。つづれ。)」
(大木) 「えっ わー ホントだー ムヅかしー字ー いやー べんきょーになるなァー」「…って ちがーう」
となっています。

書くまでもないことですが、羽山が言った言葉(そして電車の騒音にかき消された言葉)は、「オレたち ライバルだな。」というものです。話の流れから、そのことは十分に推測できます。
けっして、「ラスカル」でも「ランドセル」でも「ラバーソール」でも(以下略)ありません。ぜったいに「ライバル」です。

こんなふうに、表現としては消されているけれども周りの状況から読者が推測できるというもの。こういったレトリックを、このサイトでは「黙説法」としておきます。



 《レトリックを深く知る》


 【1.「黙説法」と「中断法」「頓絶法」との関係】

なお。

違ったレトリックとして、「黙説法」という用語をつかうことがあります。それは「言おうとして途中でやめる」、という表現としてこの「黙説法」という用語を使うばあいです。「ためらい」「怒り」「気持ちの高ぶり」などなど.によって言葉が出てこなくなって沈黙してしまった。そのことを示す表現として、「黙説法」というレトリックを定義するばあいがあります。

…というより、そう定義するのが一般的です。

ですが。
このサイトでは、そういった表現については「頓絶法」または「中断法」という項目であつかうことにします。

ですので、このサイトでいう「黙説法」というものは。
表現としては省略されているけれども、話の流れから省略されたものが分かる仕組みになっている。そういったもののことをいいます。


 【2.究極的(?)な「黙説法」の例】

――『美女が野獣』1巻51~52ページ(マツモトトモ/白泉社 花とゆめCOMICS)
エイミ 見たとこ共通点
なさそうだけど
OKした理由って…」
ズバリ 体」
エイミ&涼 !!」
――ここから回想シーン――
藤田          」
         」
注)写植ミスではありません
           」
――ここまで回想シーン――
という程の
衝撃だったわ
あの時は…」
聞いて
なかったの?
告白…」
――『美女が野獣』1巻51~52ページ
(マツモトトモ/白泉社 花とゆめCOMICS)
この「黙説法」を突きすすめると、果たしてどうなるか。それをちょっと考えてみましょう。

まず。
コミックスでの「枠組み」というのは、「ふき出し」だということができます。

ですので。
「枠組み」だけを残すということは、「ふき出し」だけを残すということになるといえます。

いいかえると。
「黙説法」というレトリックを、コミックスで究極まで押しすすめていくと。それは結局、「ふき出し」だけが残っていて、「ふき出し」の中に何も文字がないということになりそうです。

右の引用は、『美女が野獣』(マツモトトモ/白泉社 花とゆめCOMICS)から。

高校生の「操」は、同じ高校の1年生「藤田」から告白された。そのときの様子を回想しているのが、引用のシーンです。

1コマ目。
「藤田」は、なにか話をしているはずです。告白の言葉として、なんらかのメッセージを伝えようとしているはずです。

なのに、まっしろ。「ふき出し」の中に文字がない。

ではどうして。
こんなふうに「ふき出しの中身が真っ白」っていう表現を使ったのか、ということを考えると。

それは。「操」が
「告白のことば」を言っていたらしいのだけど、
そこには集中していなかったので、
よく覚えていない。
もしくは、はじめから聞いていない。
ということを表したいからだ、ということができます。

いちおう「告白をされた」、ということは間違いないみたいです。そのことは、この話を聞いた「涼」が、
聞いて
なかったの?
告白…」
と言っていることから知ることができるからです。

ようするに、コミックスで「黙説法」を突きつめていくと。
最後には、このような「ふき出しだけ」というカタチになるのではないかと思われます。

なお。
「操」は、「藤田」の告白をOKした理由として、
といっています。

これは、誤解をまねくような表現だと思うので、ちょっと書きくわえておくことにします。

結論からいえば。
「操」は、「肉体美フェチ」だといって間違いありません。ここで「操」が言っている「体」というのは、
  • どんな腰回り
  • どんな胸板
  • どんな首筋
  • どんな鎖骨 (1巻72ページ)
といったような意味です。なので決して、「男の体」「女の体」といったような、いかがわしい意味をもっていることばではありません。まあ。たしかに「フェティシズム」ではあるだろうけれども。

ほかにも「操」は、
武○士のCMで踊っている人たちのポスターを、部屋のカベに貼ったり
それについて、
「あの鍛えた筋肉と細い足首のコントラストが 何とも こう…」
とコメントしたり。

まあ。そういったわけなので。
「操」にとって、告白の相手が持っていなければならない条件。それは、「顔かたち」でもないし、「告白の時の言葉」でもない。やっぱり「体」なのです。

まあ、そんなわけで。「ふき出し」が真っ白になっているわけです。
関連項目→暗示的看過法、中断法頓絶法省略法、懸延法、挿入法
このサイト全体からのサーチ
 
「使う目的別のページ」の中からサーチ
TOPへ 50音順 使う目的別(作成中) 佐藤信夫『レトリック事典』の分類 中村明『日本語の文体・レトリック辞典』の分類