15 為替リスク

為替リスクの発生、すなわちある通貨が他の通貨に対しての交換レート(為替)が上下するメカニズムは、通貨もひとつの商品と考えた場合、それぞれの通貨に対する需要と供給の関係によってその通貨の価値が上下する事として説明されます。為替の上下は、主として貿易取引から発生するその通貨の需要と供給の関係であったが、最近は通貨そのものが投機の対象となり、1997年のロシアや東南アジア諸国の通貨危機を招き、我々の建設事業を通じて受領し使用する通貨が以前よりはるかに大きくリスクに晒される結果となっています。

外貨部分の売上高や支出金などを円貨で表示する場合、ある基準で換算するが為替リスクとは

@      実際に市場で売却(購入)した時との差額(取引決済リスク)

A      期末や決算時に評価し直す時に使う換算レートとの差額(評価リスク・実現はしていないが帳簿上の差額)

の二種類が考えられます。

前者(取引決済リスク)は、海外旅行にでかける前に購入したドルのレートと、旅行から帰って余ったドルを売却した時のレート差により、実現した差額を考えると分かりやすい。

後者(評価リスク)の例として、旅行から帰って仮に余った外貨が100ドルであったとすると、購入時のレートが$1=¥110であれば11,000円の残存価値(帳簿価格)となるが、円高によって$1=¥100となれば手持ちのドルの評価は10,000円となり、1000円の評価損が発生する事になります。

建設のビジネスに当てはめてみると、前者(取引決済リスク)の典型として200万ドルの受注額は受注計上レート(例えば@110円)を使って22千万円と認識していたが、客先より外貨送金を受け銀行に売却したとき(円転した時)、円転レートが例えば@100円であれば受領金額は2億円となり、2千万円の差損が実現することになります。

後者の評価リスクの例としては、未収入金を計上した時に用いた換算レートと翌期以降の決算時に評価替の目的で用いるレートとの差額が、評価上の為替リスクとして表れることになります。

未成工事に関する為替リスクは、決算時までは請負金の増減や工事原価の増減となって表れるが、手持現預金の評価替えによる為替差額は、営業外損益として処理されます。またある完成工事の決算後の未収入金や未払金等の債券・債務の評価替えによる為替差額については営業外損益として処理されます。

リスクから逃れる事(防衛すること)をリスクヘッジと呼んでいます。一般的には保険を付保する、発注者や下請者にリスクを引き受けてもらう事が考えられるが、為替リスクに関しては次のような方法が考えられます。

@        マリー(marry=結婚する)と呼ばれるもので、受領外貨を円転せずに外貨建ての支払いに充当する外貨資金操作の事

A        メーカーズリスク(maker’s risk)と呼ばれ、日本や第三国の下請者や材料納入業者と外貨建ての契約をする事

B        リーズ&ラッグズ(leads and lags)と呼ばれる手法で、円安が予想される場合には外貨建ての支払いを先行させる“支払急ぎ”をおこない、同時に外貨建ての受取りを遅らせる“受取り延ばし”をする方法。(円高が予想される時は逆の操作となる)

C        為替予約と呼ばれるもので、将来の一定時点で予め決めた相場で為替取引をする事を決める方法。

D        その他“為替変動保険の付保”“インパクトローンの実行”“外貨建て債券の発行”なども考えられる。

上記の方法は一長一短であり、単品の貿易契約と違って、建設契約ではなじまない面もあります。要は為替リスクに晒される額(exposure: エックスポージャー)を極小化する事に尽きる訳で、日常的には日本からの送金額を必要最小限とし、海外からの逆送金を有利な時期に行い、下請への支払いは発注者から受領した後にする(Pay if paid)事などの基本を常に念頭に置きながら実行する事でしょう。

実例として、ビルの鉄骨の見積を第三国の納入業者にさせたら、思いがけず有利な値段で見積が出てきた。そのため工事全量の鉄骨納入契約をし、前途金を支払い早めに現場への納入をさせたが、折からの通貨危機に遭遇し、発注者から契約金額として受け取る現地通貨の価値が大幅に下落し、おまけに工事がストップしてしまうという結果になってしまいました。その結果鉄骨業者(第三国)への支払に大きな差損が発生したのです。この例では、不幸な出来事が重複したこともありますが、日本国内的感覚で調達行為をしたこと、キャッシュフロー会計を軽視したこと、為替リスクにさらされる額を極大化したマネージメントの失敗といえます。