7時に起きて外に出ると,夜の間に雨が降ったのだろうか,中庭が濡れている。昨日とは違い,空は曇っている。シャワーを浴び,ダイニングルームでパンを焼いて朝食にする。そのうちにKさんもやって来たので,9時に出掛けることにした。
話の流れからKさんと一緒に仏国寺に行くことになったが,出会ったばかりの人と行動を共にするのは気が重い。誰にも独自の行動パターンがあり,それを探りつつ,調整しつつ動くのはストレスが溜まる。寺へも一人で行く方が気楽だし,好きなだけ見て,好きな時に帰って来られる。まあ,これもひとつの旅だろうと割り切った。
昨日着いたバスターミナル辺りまで歩き,路上のバス停でしばらく待つと仏国寺行きのバスが来た。田んぼの中,線路に沿った道を走り,山の中に入って行くと30分ちょっとで仏国寺前の広い駐車場に着いた。平日の朝なので人も車も少ない。石窟庵へ行くバスの時刻を調べて,公園の中を抜ける坂道を上る。山門前に10時過ぎに着いた。
境内に入ると参拝客の姿はちらほらと見える程度。門を抜けて本殿の前に進むと,白っぽい石を組んだ基壇と階段状の橋が迫ってくる。仏国寺は秀吉ジャパンの軍勢によって破壊されたそうだが,それがなくても木造建築が千年以上も生き永らえることは難しかっただろう。この石造りの部分が創建当時の姿を伝えている。曇り空の下の仏国寺は寒々として美しい。晴天の昨日ではなく今日来て良かったと思う。
国宝の石橋は上れないので脇から廻って本殿の中に入る。中庭に2つの石塔。この頃になると参拝客も増えてきて境内も賑やかになってきた。石窟庵へ行くバスは1時間に1本で,10時40分のバスには乗れそうもないので時間はたっぷりあった。日本からの観光客も多く,日本語ガイドさんの話も聞くことができる。

石造りの青雲橋と白雲橋

本殿の大雄殿

裏手にも連なる伽藍
バスの出る駐車場には11時半に戻った。警察関係の車がやたらに多い。バスに乗ると暖かくてホッとする。バスは7〜8人の客を乗せて出発した。山の中の道を15分ほど上って終点に着いた。平坦な白っぽい参道が,葉を落とした落葉樹の中をうねうねと延びている。冷えた空気を吸いながら森の中の道を歩くのは清々しく気持ちが良い。片言の日本語を話しているアガシを夫々に連れた男3組とすれ違う。
10分ほど歩いて石窟庵の下に着いた。ここから急な坂道を少し上ると石窟庵がある。石窟の前に設えた小さな建物の中に入ると,ガラス板の向こうに御本尊があった。柔和な面差しのたいへん美しい石の仏様だが,全体があまりに白いので古いものに見えない。石窟庵の前からは低い山の連なりを遠くまで見渡せる。山の合間に田んぼも見えるが,遠くの方は霞んでいた。
白い参道をバス停まで引き返して来ると,傍らに仏国寺まで3.2Kmと歩道の進路を示す立て札がある。辺りには気持ち良さそうな森が広がり,吝嗇が故ばかりではなく,ここは是非とも歩きたい。Kさんも同意してくれたので歩道の方へ足を向けた。
歩道は最近整備されたばかりのようで道幅も広く歩きやすい。もちろん登って来る人もいる。最初は少し急だが,そのうちになだらかな坂になった。落ち葉が積もったナラやシデの森の中は,林床まで光が届いて明るい。Kさんも山歩きはお好きなようで,正直なところ歩道を下るに当たって少し心配でもあったのだが,まったくの杞憂だった。半分ほど下ると道幅は更に広くなった。散り始めたモミジの赤が美しい。

石窟庵への参道

石窟庵の建物

仏国寺までの遊歩道
仏国寺前の駐車場に戻って来ると観光客は更に増えていた。警察関係も更に増え駐車場の一角に整列している。時刻は1時半。バス乗り場まで来ると,その先に食堂が見えるのでここで昼食にする。身体が冷えていたので石焼ピビンパが美味しかった。2時過ぎに食堂を出てバス停に向かう。間もなく慶州行きのバスが来た。
帰りのバスは来る時とは別の道を通る。道端に警官の姿が多く,道路に面した家の前や道が交わる所には必ずいる。もうすぐ釜山で始まるAPECに出席するVIPがやって来るのかもしれない。交差点でバスが止められた。運転手は大声で警官と話している。道端にバスを止めて待っていると,白バイに先導された車列が通り過ぎていった。
Kさんは駅前でバスを降りたので,3時頃一人で宿に戻った。寒い。寒いし眠いので部屋に入って眠った。目が覚めると6時前で,部屋から出るとちょうどKさんが帰って来たところだった。6時半頃から一緒に食事に行く。宿の近くの通りで一番明るく大きな店に入ったら客は誰もいなかった。店の中は広々としていて寒い。二人でメニューを解読してチゲを注文する。僕の韓国語はハングルを読める程度だが,Kさんは少し会話が出来るので店のねえさん相手に話していた。
Kさんも僕も慶州の後は海印寺に行くつもりでいた。海印寺へ行くには大邱が起点となるが,大邱の近郊には秀吉の朝鮮出兵の際に離反した一派が住み着いた村がある。そこに行こうかと思っていたのだが,Kさんも興味があるというので,もうしばらく一緒に動くことになった。8時半頃ようやく次の客がやって来たので,それを潮に引き上げることにした。店を出ると冷え冷えとした満月が空に光っていた。

銀杏を拾う少年たち

慶州の宿へ続く道

宿の近くの路地