日本神話について

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「なんで姉さんまで、親父みたいに邪魔するんだ。俺は、ただ単に母さんに会いたいだけなのに」
「お母さんは、遠いところへ行ったのよ」
「いや、根本的に誤解があるみたいだな。俺達は父親が誰かは分かるけどさ、母親なんて顔も知らないだろ。だから、母さんに会わせて欲しいと言ってるんだけど」
「お前は、なんという事を! それは、もう一人の影が薄過ぎるのと同じく、口にしてはいけない事なのに」
「……姉さんて天然だよな。兄貴、気にしてるだろうに」

◆さて

 どこの神話もそうなんですが。各地の集落が国家としてまとまる時に、それぞれの神様を一つの話に統合するわけです。
 当然、有力な一族の信仰していた神様が偉くなり。また、様々なエピソードが混ざったりして、複雑な性格になったりもします。ぐちゃぐちゃな婚姻関係のギリシャ神話とか、ころころ最高神が変わったエジプト神話とか。まるで違う物を系統づけようとするので、無理が出てくるんですよね。

 記録が残るようになると、由来もはっきりしてきますので、あまりこういう混乱は起きません。天神様を祀った神社なんか、あちこちにありますけど。元となった菅原道真に関して、色々と残されていますから。

 日本は、大陸や北方に南洋諸島と、様々な土地から流入した人々が混ざって作られたので。大陸はもとより、オセアニアの民話と共通する部分も、かなり存在します。
 成立からして、色々な影響を受けまくった日本神話なんですが。その後も、時間の経過や移りゆく文化によって、かなり変わったようです。

 現存する最古の記録は8世紀、ほぼ同時期に編纂された古事記と日本書紀で。王権神授説、つまり天皇は神の子孫であるという権威づけの側面もあります。
 古事記も日本書紀も、その当時の段階で流入していた文化の影響を、もろに受けてます。大陸の道教や儒教に、仏教や拝火教(ゾロアスター教)は言うに及ばず。回教(イスラム教)やら景教(キリスト教ネストリウス派)の物事も、かなり採り入れているはずです。
 なんせ、神道は物凄く包容力のある宗教ですから。平将門のような王への反逆者を堂々と奉れる宗教なんて、あんまりありませんよ。

 とはいえ、古来の失われたオリジナルを求めても、ここでは意味の無い事。
 古事記や日本書紀で語られている、日本神話のエピソードについて。簡単な紹介をしていきたいと思います。


◆イザナギとイザナミ

 世界の始まりに、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)と、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)に神産巣日神(かみむすびのかみ)が発生しました。造化三神(ぞうかさんしん)と呼ばれる、性別とかの無い三柱の創造神です。
 それから七代の後に生まれた兄妹が、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)です。

 ちなみに。神々の住む天上世界を、高天原(たかまがはら)。天上界と地底世界(黄泉の国など)の間にある地上世界を、葦原中津国(あしはらのなかつくに)と言います。

「まだ地上が出来て無いから完成させて来い」
 と上司に命じられた二人は、天浮橋(あめのうきはし)の上から、神槍・天沼矛(あめのぬぼこ)で混沌とした世界を掻き混ぜます。矛先から零れたものが島となると、そこに降りた二人は仕事に取りかかりました。

「お前の体って、どうなってんだ?」
「えっと、もう充分成長してると思うけど。一ヶ所だけ、足りてないの」
「俺の方は、どうも余ってるみたいなんだよな。そこで提案なんだが。こいつで、お前の穴を塞いで子供を産ませるとか、どうだ?」
「うん。そうしよっか、お兄ちゃん……えへへっ」

 ヤり方が良く分からなくて、セキレイの交尾を参考にしたとか。やがて子供が生まれたんですが、水蛭子(ひるこ。三歳になっても立てない、不虞の子)だったんで水に流しました。
 何が悪かったのか、鹿の骨を焼いて占ってみたところ。どうも、後背位だったのがまずいというので、正上位で再挑戦します。ええ、初体験から兄妹が後背位で盛っちゃいけませんという教訓を……本当に神話通りですよ?

 ともかく。それからは順調に、島や神を産んでいったんですが。火の神を身籠もったイザナミが、物凄い難産で苦しみ。出産と同時に、女性器に大やけどを負って死んでしまいます。
 嘆き悲しんだイザナギは、生まれたばかりの我が子、火之迦倶槌神(ほのかぐつちのかみ)を斬り殺しました。

 どうにも諦めきれず、イザナギはイザナミを求め、死者の住む黄泉の国へ行きます。
 わりとあっさり探し出したんですが、妹は顔を見せてくれません。なんでも黄泉の国の食べ物を口にした為に、変わり果てた姿になっているとか。
 偉いさんに許可を取ってくるから、自分を見るなと厳命しました。
 見るな、というのは見ろという伏線なので、イザナギは当然ながら覗くんですけど。蛆にたかられ、雷を纏う死体に、びびって逃げ出します。

「絶対に見ちゃ駄目って言ったのに、お兄ちゃんのバカーっ!」
「待て。俺が悪かったから、落ち着け」
「うるさい、うるさいっ!」

 手下を使って兄を追うイザナミから、必死になってイザナギは逃げていき。神聖な実である桃を投げたりしつつ、黄泉津比良坂(よもつひらさか)から地上へ出て、すぐに出口を塞ぎます。
 口喧嘩して妹と別れた後で、黄泉のケガレを落とすと、様々な神が生まれました。
 最後に洗ったのが左目、右目、鼻。それぞれ、天照大御神(あまてらすおおみかみ)、月読命(つくよみのみこと)、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)が生じます。

 長女の太陽神アマテラスが天上界を、長男の月神ツクヨミが夜を、末っ子スサノオが海を支配する事に決まりました。


◆天の岩戸隠れ

 スサノオはイザナミのいる根の国へ行きたいと泣き叫んで駄々をこね、あちこちで暴れます。根の国というのは、生と死が曖昧で、常に再生へと向かってこの世に口を開いている地底世界(海底とか海の向こうという説も)でして。死霊の住む黄泉の国とは別物です。
 さて。親父は「お前みたいな奴は追放だ」と言ったきり、引き籠もったか死んだか、二度と出て来ません。役目の済んだ人物は、わりとほったらかしなんですよね。

 とりあえず根の国へ行く前に、姉に挨拶しておこうとスサノオは高天原に行くんですが。それまでの所業から、高天原を乗っ取りに来たんじゃないかと神々が騒ぎ立て。結局、男装したアマテラスが弓を構えて待つ事に。

「ちょっと待った! 誤解だって、姉さん」
「スサノオちゃんが悪い子じゃないのは、お姉ちゃんも分かってるつもりだよ。でもね。これまでが、これまでだから」
「あ、ええと、そうだ。じゃ、二人で誓約(うけひ)しようぜ」
「誓約?」

 アマテラスが弟の剣を咥えたり、スサノオが姉の珠を噛んだりして。姉弟で三女五男の子供を作ります。
 ……いや、嘘じゃありませんよ?

「先に生まれた女の子は、スサノオちゃんの子で。後から生まれた男の子は、お姉ちゃんの子だね」
「ほらな。俺が潔白だから、優しい女の子が生まれたんだ」
「うん。お姉ちゃん、スサノオちゃんを誤解してたな。ごめんね」
「良いんだよ。姉さんが分かってくれれば」

 こうして、しばらくスサノオは高天原に滞在しました。悪質なイタズラやって苦情が舞い込んでも、

「私はスサノオちゃんを信じます! きっと、何か考えがあるはず」

 と、お姉ちゃんは突っぱねてたんですが。アマテラスが織物をしてる時、屋根に穴を開けたスサノオが皮を剥いだ馬を投げ込み。驚いた織女の一人が、織機の部品で性器を貫かれて死んじゃうんです。
 ……いや、マジで。

 お姉ちゃんがショックで天の岩戸に引き籠もると、太陽が失われた世界は闇に覆われます。災害だの疫病だの、悪鬼の襲来だので、神々が対策を検討し。思兼神(おもいかねのかみ)のアイディアで、岩戸の前で宴会を開きます。
 色々な物を用意したんですが。三種の神器のうちの二つ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)と八咫鏡(やたのかがみ)は、この時、天太玉命(あめのふとだまのみこと)によって作られました。

 岩戸脇に天手力男命(あめのたぢからおのみこと)という怪力の神を待機させ。天宇受売神(あめのうずめのかみ)がストリップを始めます。

「ちょっとだけよ? あんたも好きね」

 どうせ神様なんだから御上品なんだろ、とか思った素人さんは、ウズメ様に謝って下さい。トランスしながら、胸を完全に晒し、服を陰部まで下げて踊り狂いました。
 神様連中も男ですので、かぶりつきで見ながら演技でなく喜び。表がそんな状態になると、アマテラスが岩戸を少し開けて顔を見せます。

「うるさいな、静かにしてくれない? 弟がグレて憂鬱だってのに、あなた達、何を楽しそうに騒いでるの」
「そんなの決まってんじゃん。あんたより偉い神様が来たから、みんな喜んでんのよ」

 ウズメ様が答えると、待機していた神が八咫鏡をアマテラスの前に置き。そこに映った影を偉い神様だと思ったアマテラスが、もっとよく見ようとします。タヂカラオが手を取って外へ引っ張り出し、他の神々が岩戸の入り口を封印しました。

 この後、処分が決まり。スサノオは賠償金を取られた上、髭と手足の爪を切られて追放されます。


 ふらふらと彷徨い、腹が減ったスサノオが大気津姫神(おおげつひめのかみ)に飯を頼んだんですが。準備中のところを覗き、鼻とか口とか尻から出してるのを見て。

「何食わす気じゃ、てめえ!」

 と斬り殺してしまいます。死体からは、各種の食物の種が誕生しました。食物神の犠牲によって、食べ物が生まれるという神話ですね。
 日本書紀では、ツクヨミと保食神(うけもちのかみ)の話になっています。お姉ちゃんが怒り、「もう会いたくない」と言ったので、太陽と月は昼と夜に別れるようになったとか。
 ……でも、昼間も月って出ますけど。


◆ヤマタノオロチ退治

 スサノオは高天原を出てから、出雲の斐伊川、現在の奥出雲町鳥上に着きます。箸が川を流れてきたので、人が住んでいるんだろうと上流へ向かうと。やたら暗く泣き続ける一家がいました。
 話を聞くと。山を八つ跨ぐほどの、バカでかい八本首の蛇。八岐大蛇(やまたのおろち)が古志から襲来して、毎年一人づつ生贄の娘を食べるそうで。八人いた娘も、末っ子の櫛名田比売(くしなだひめ)だけになってしまったと言います。

 やたら八が付くのは、「八百万(やおろず)の神々」でお分かりのように。大勢という意味です。アリババと四十人の盗賊の、四十と同じですね。
 ま、つまり。でかくて無数に頭のある大蛇なわけです。
 神話研究では、氾濫の多かった斐伊川を表わしていると言われています。オロチの腹が赤いというのも、砂鉄を含んだ川と考えれば分かり易いでしょう。

「こんな可愛い娘を蛇に食わせるなんて、勿体無いにも程があるだろ」
「いえ、そう言われましても。生贄を捧げなくては、被害は甚大なものに」
「俺に任せろ。その代わり、上手くいったら嫁にくれ」

 スサノオは強い醸造酒を用意させると。八つの門を作り、その先に並べるように伝え。クシナダヒメを守る為に櫛に変えて髪に挿し、近くで待機します。
 現れたオロチが酒を飲んで、酔い潰れて寝るのを待ち、門で固定した首を刎ねていきました。強過ぎる化け物に、真正面から勝負を挑むような馬鹿は、頭が良ければやりませんよね。

 十拳剣という、天上界製品の拳十個分の長さの剣でオロチを切り刻んでいったんですが。尻尾で硬いものに当たり、刃が欠けます。尾を裂いてみると大きな剣、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)が出てきたので、珍しい物だと姉にプレゼントしました。
 剣の名前の由来は、オロチの頭上には常に雲が懸かっていたからだとか。


 さて。宮殿を造る場所を探したスサノオは、出雲のある地で、

「なんか、すげえ清々しい気分だ」

 ここに決めた、と都市を建造しました。すがすがしいので須賀だそうです。
 完成した時に雲が出たので、「八雲立つ」なんて詩を詠んだりとかしますが。奥さんの親を呼んで、都の首長を任せました。

 門はダム、退治は治水、天叢雲剣は砂鉄から剣を作ったと考えると。氾濫を抑えた土木技師の話、と捉える事も出来ます。生贄は、自然災害に捧げるものですしね。


 スサノオとクシナダの子は、クシナダの伯母の木花知流比売(このはなちるひめ)と結婚し、布波能母遅久奴須奴神(ふはのもぢくぬすぬのかみ)を生みます。次は、そのフハノモヂクヌスヌノカミの孫の話です。


◆出雲神話 〜因幡の白兎〜

 スサノオ六世の孫、大穴牟遅神(おおなむぢのかみ。大黒様)には大勢の兄弟がいました。八十神(やそがみ)と呼ばれるんですが、具体的に八十人ではなく、オロチと同じで多いという意味です。
 みんなで、因幡(いなば)の八上比売(やがみひめ)のとろこへ求婚に向かうんですが。兄貴達に荷物を全部持たされたオオナムヂは、他の連中より遅れる事になります。

 話は変わって、ある白兎。(元は素兎といって、裸の兎の意)
 島から因幡に渡るには、海を越えるしか無かったものの。とてもじゃないが泳げない距離に、兎は一計を案じました。辺りを泳いでいた鮫に、

「あんたらは大勢いるけどさ。おいらの仲間の方が、もっといると思うぜ」
「ちゃんと調べなけりゃ、どっちが多いかなんて言えねえだろ」
「それじゃ、おいらが数えてやろうか」

 任せた、というんで一列に並べさせ、数えながら海を渡っていきます。しかし、あと少しというところで、掟のような失言を行いました。

「け、騙されやがって。俺が海を渡るのに利用されてるだけとも知らずによ。やっぱ、頭は使ってこそだな。バーカ」

 まあ、当然ですが。リンチにあって皮を剥ぎ取られます。
 しくしく泣いている兎に、通りかかったオオナムヂの兄貴達が、笑いながら助言してあげます。

「これは大変だ! 君、すぐに海水を浴びて、山の上で風に当たると良いよ」

 言われた通りにすると、よけい酷くなりました。真っ赤になって、ひりひりと痛んでいきます。
 半死半生になって伏せる兎に、後から来たオオナムヂが事情を聞き。真水で体を洗い、蒲の花粉(傷薬)を敷いて、その上で寝ると良いと教えてやります。兎は元気になると、オオナムヂに礼を言い、ヤガミヒメにチクりに行きました。

 一部始終を聞いた彼女が、兄達ではなくオオナムヂを選ぶのも当然でしょう。物語のお約束として。


◆その後のオオナムヂ

 ふられた兄貴達は、罠にかけてオオナムヂを殺します。母親が生き返らせたんですが、また殺されたので、木の国へ逃げたものの。そこまで追って来られて、死後のスサノオが治める根の堅州国へ行きました。

 スサノオの家を尋ねたオオナムヂは、スサノオの娘の須勢理毘売命(すせりびめのみこと)に会い。お互い、一目惚れします。
 ……ヤガミヒメとの間に、子供までいるんですけどね。

 うきうきと娘が彼氏を紹介するので、スサノオは彼を蛇のいる寝室に放り込むんですが。スセリビメに貰った、蛇の比礼(ひれ)という蛇を鎮める布で切り抜けます。次の晩は、ムカデと蜂の部屋を用意され、また同じようにして助かりました。

 この野郎、と思ったスサノオは「試練じゃ」と言い、広い野原に鏑矢を射て取ってくるように命じます。のこのこオオナムヂが出掛けていくと、周囲に火を放ちました。
 逃げ場の無いオオナムヂの前に、ネズミが現れます。

「やべえ、マジで殺られる。これも、娘を傷物にした報いってやつか。って、何度も何度も死にたくねえーっ!」
「あんさん、あんさん。中は広いけど、入り口は狭いぜ」
「この状況下で、ネズミに猥談を言わ……むむ。さては、とんちじゃな」
「お主に解けるかのう?」

 オオナムヂが屈んで調べると、地面に穴が空いていました。その中で火をやり過ごし、ネズミに取ってきて貰った矢を手に戻ります。
 彼が死んだと思って、スセリビメは葬儀の準備をしてたんですが。にやにやして死体を確かめに行ったスサノオの元へ、意気揚々とオオナムヂが帰ってきました。

 スサノオは家に入れた彼に、頭の虱を取ってくれと頼みます。ところがムカデだったので弱るオオナムヂを、またスセリビメが助けました。
 彼女に貰った木の実を噛んで、口に含んだ赤土を吐くオオナムヂを見て、

「こいつ、ムカデを食ってやがる……愛い奴じゃ」

 と、スサノオが寝ます。この感性は流石は神様、といったところでしょうか。
 このままじゃ殺されるというんで、スサノオの髪を柱に結び、入り口を大きな石で塞ぐと。彼の大剣と弓をかっぱらい、スセリビメを背負って逃げます。が、彼女の琴が木に当たって鳴り、スサノオを起こしてしまいました。
 その勢いで柱を倒したスサノオですが、髪を解くのに時間が掛かりまして。
 とんずらこくオオナムヂを、黄泉津比良坂(かつてイザナギが逃げた坂と同じ名だが、あそこは封鎖されてますし、多分別の場所。地底世界である根の国や黄泉の国に続く坂道を、そう呼ぶのかも)まで追いかけたものの。
 そこで諦めたスサノオは、遠離る背中に声を掛けます。

「その剣と弓で、てめえの兄貴どもをヤッチマイナ。娘を妻にして、大国主(おおくにぬし。大王の意)となるんだぞ」
「はい、娘さんは必ず幸せにします!」

 大国主は兄貴達を倒し、国造りを始めます。
 カミムスビの子、蛾の服を着た少名毘古那神(すくなびこなのかみ)の手を借りたんですが。彼が死んで弱っていたところに、海の向こうから助けが来ました。

「私は、あなたの良い心が分離した者です。私を尊び敬い伏して崇め奉るなら、手を貸してあげましょう」
「なんか、良い心というには、偉そうじゃないか?」
「少しは自覚しなさい、クサレ外道。あなたのような鬼畜には、これでも丁寧過ぎるぐらいですよ。どうして私が、このようなクズと同じだったんでしょうか。あまりにも残酷な運命に、怖気が震い、悲嘆に暮れるほどです」

 その大物主(おおものぬし)を、大国主は大和の東、三輪山に祀ります。彼の協力を得て、出雲の国を造っていきました。


 ところで。大国主は、女傑スセリビメを妻にしましたよね?
 では、前妻のヤガミヒメはどうなったかというと。スセリビメが怖かったので、生んだ子供を木の俣に捨てて実家に帰りました。
 ……やはり、兎の意見なんかを聞いたのが、間違いだったんじゃないかと。
 妻も子もいながら、他の女に手を出した大国主が、同じ事を繰り返さないわけもなく。高志国の沼河比売(ぬなかわひめ)を口説いて、スセリビメに嫉妬されます。勘弁してくれと大和に逃げようとした彼は、妻のラブレター作戦で連れ戻されました。


◆おまけ 大物主の話

 ま、やはり根は同じというべきか。

 コトシロヌシ(恵比寿)の娘、勢夜陀多良比売(せやだたらひめ)が美人だという噂を聞いたオオモノヌシ。見に行って、一目惚れします。

「どうやって声を掛けましょうか」

 と知恵を絞った彼は、セヤダタラヒメが用足しに川へ向かったのを知り。赤い矢に化けて、上流から流れていきます。そして、彼女の近くまで来たところで、いきなり性器に突っ込みました。
 ……いや、嘘や冗談は欠片も無くて。
 矢を持ち帰ったセヤダタラヒメと結ばれ、媛蹈鞴五十鈴媛命(ひめたたらいすずひめのみこと)を生みます。その子が、後に神武天皇の后となりました。

 他にも活玉依毘売(いくたまよりびめ)という娘が身籠もったので、両親が問い質してみると。毎晩、男が夜這いに来ていたというんですね。
 両親が正体を突き止めるべく、麻糸につけた針を男の服に刺すよう娘に言いつけます。翌朝、糸を辿っていくと、三輪山の社まで続いていたんだそうです。


◆大国主の国譲り

 ある日。ふと思いついて、お姉ちゃんが言いました。

「葦原中津国は、私とスサノオちゃんの子の、アメノオシホミミが治めるべきだと思うな。というわけで、行って来てね」

 命じられた天之忍穂耳神(あめのおしほみみのかみ)は、天浮橋に立って下界を覗きます。びびって無理だと辞退する彼に、お姉ちゃんの機嫌は悪化しました。
 アマテラスと上司のタカミムスビが、神々を集めて相談させた結果。参謀のオモイカネの意見を採り入れ、オシホミミの弟、天穂日神(あめのほひのかみ)を行かせる事になります。

「くっくっく、最初から私に御命じになれば良かったものを。腑抜けの兄とは、一味も二味も違う結果を、御覧に入れましょう」
「うんうん。やっぱり男の子は、こうでなくっちゃ。期待してるからね」
「お任せ下さい、母上」

 勇んで出陣したアメノホヒですが、三年経っても帰って来ません。どうしたのかというと、大国主の家来になってました。
 うきーっとなったお姉ちゃんは、次に天若日子神(あめのわかひこのかみ)を派遣します。後ろ盾の良く分からない人なんですが、反逆の美男子として人気がありますね。

 タカミムスビに神弓と矢を与えられた彼は、大国主のところへ行くんですけど。その娘の下照姫神(したてるひめのかみ)と結婚しました。シタテルヒメは、スサノオとアマテラスの誓約で生まれた女神の、娘です。
 ……ええ。大国主は、また別の女に手を出したんですな。それも大勢なんで、身を引いたヤガミヒメは立場ありません。

 さて。
 このままいけば、自分が王になれるわけですから。オシホミミに譲るなんて冗談じゃないと、アメノワカヒコは八年経っても連絡一つ寄越しませんでした。

「あの子は何やってんのよ!」

 と、お姉ちゃんがお怒りなので、雉鳴女(きざしのなきめ。キジ)に事情を聞かせに行きます。うるせえ、とアメノワカヒコが雉を射殺した矢は、タカミムスビのところまで飛びました。
 血痕が付着しているのを見たタカミムスビは、

「もし、この矢を射たのがアメノワカヒコならば、あいつに当たってしまえ」

 と言って投げ返し、胸を貫かれたアメノワカヒコは死んでしまいました。
 シタテルヒメの兄貴は、アメノワカヒコそっくりだったので。葬儀に訪れた両親が勘違いして、怒った彼に蹴飛ばされ、葬儀場を切り倒されます。(兄じゃないという記述もある。ま、参列者に似た人がいたわけです)

「今度は誰?」

 ぶすっくれたお姉ちゃんに。オモイカネ達は、次は天之尾羽張神(あめのおはばりのかみ)か、彼の息子の建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)だと推薦しました。
 アメノオハバリという神様は、イザナギがカグツチを斬り殺した剣であり。タケミカヅチは、その時に飛び散った血から生まれた神です。オハバリも息子を推挙したので、タケミカヅチが向かう事に。
 これまでの失敗のせいか、お目付役に副官もつけられました。

 出雲に着いたタケミカヅチは、剣先の上にあぐらをかいて座るパフォーマンスで大国主に詰め寄ります。

「天照大御神が、中津国はあの御方の子孫が統治すべきだと仰っている。貴様は、どう思う?」
「いや、えーっと。そう! 俺は良いんだけど、息子が何て言うかなあ」
「ほう? では俺が聞いてきてやろう」

 釣りをしていた事代主神(ことしろぬしのかみ。恵比寿様)は、無理矢理承知させられると。逆手(右手を引く柏手の逆で、左手を引く。呪い手)を打ち、船から飛び降りて入水自殺します。
 恵比寿様やアメノワカヒコもですが、道真といい将門といい、反逆者って人気ありますよね。

 タケミカヅチが再度、大国主に詰め寄ると。やってきた建御名方神(たけみなかたのかみ)が、

「何を、ぐだぐだ言ってやがる。男だったら力で勝負しろや」
「野蛮な」
「んだと、コラ!」

 タケミナカタが掴んだ手を、タケミカヅチが氷柱、次いで剣に変化させます。当然離れた手を、タケミカヅチは握り潰し、タケミナカタを諏訪湖まで追い詰めました。命乞いをする彼を追放し、また大国主のところへ戻ります。
 彼が降伏条件に出した、出雲大社の建造を約束すると。任務完了したタケミカヅチは、お姉ちゃんへ報告すべく天高原に帰還しました。


◆天孫降臨

「これにて、一件落着。アメノオシホミミ、さっそく、前に言った通り、葦原中津国を治めてきなさい」
「いえ、母上。準備中に子供が産まれましたので、この子に任せたいと存じます」
「あなた、よっぽど地上に降りたくないのね。そんな事ばっかり、ちゃんとやってるくせに……ま、いいわ」

 という、お姉ちゃんの命に従い。オシホミミの子、邇邇芸命(ににぎのみこと)が出発します。
 ウズメ様やフトダマなど五人の供を連れて、迎えに来た猿田彦大神(さるたひこおおかみ。天狗の元祖といわれる)の先導で中津国に行きます。別働隊で、祭司長を命じられたオモイカネや、警備担当のタヂカラオと天石門別神(あめのいわとわけのかみ。門の神)も続きました。

 高千穂に着いたニニギは、立地条件が良いと、そこに宮殿を建てます。五人の供は、それぞれ古代の豪族の祖先なんだそうです。ニニギがウズメ様に、サルタヒコを送ってくるように命じますが。ついでに結婚したので、ウズメ様は猿女君(さるめのきみ)とも呼ばれます。

 さて。笠沙の岬を歩いていたニニギは、美少女を見かけて口説きました。彼女は木花開耶姫神(このはなさくやひめのかみ)といって、クシナダヒメの伯母なんですけど。歳とか考えるのは、無意味なので気にしないで下さい。

 親が承知するなら、と言われて尋ねていったニニギは大歓迎されます。
 姉の磐長媛命(いわながひめのみこと)も一緒に貰ってくれ、と差し出されたんですが。岩石の神の彼女は、筋骨隆々とした巌のような逞しい女性で、

「こんなブスいるかっ!」

 と、ニニギは突っ返し、コノハナサクヤヒメとだけ結婚します。
 彼女の親は、ある願掛けをしていました。コノハナサクヤヒメを妻にすれば、木の花が咲くように繁栄し。イワナガヒメを妻にすれば、岩のようにニニギの命は永遠となるだろうと。

「呪われるが良い、ニニギよ! 貴様はイワナガヒメを娶らなかったので、子々孫々、木の花のように儚い命を続けるのだ!」

 しかし、そんなものよりも恐ろしい驚愕が、ニニギを襲うのであった。コノハナサクヤヒメは、なんと一夜の契りで産気づいたのだ。

「裏切ったな! 初めてとか言ってたのに、僕を裏切ったんだ。初夜の翌日に臨月だとか、どんだけ寝取られなんだよ! ちくしょう、誰の子なんだか言ってみろ」
「あなたの子供に決まってるじゃない。破瓜の血も見たでしょ」
「嘘だ! 昨日まで童貞だったからって馬鹿にすんなよ。僕の周りには、ウズメさんとかエロイ人もいっぱい居るんだ。処女じゃなくても出血する事があるなんて、そんなの常識じゃないか」
「私が昨日、妊娠してなかったのは、あなたも見て……ああもう、分かりました」

 ムカムカしながら、コノハナサクヤヒメは誓約します。

「この子が他の男の子供なら無事では済まず、あなたの子なら無事に産めるでしょう」
「何する気なんだ?」

 戸の無い産屋を作ったコノハナサクヤヒメが、中に入って火を点けます。こうして無事に出産し、身の潔白を証明したわけです。
 火の勢いが盛んな時に生まれた子を、火照命(ほでりのみこと。海幸彦)。火が弱くなった時に生まれた子を、火須勢理命(ほすせりのみこと。この後は、一切登場しない)。火が消えた時の子を、火遠理命(ほおりのみこと。山幸彦)と名付けました。

 ちなみに。ホデリは、現在の鹿児島県に住んでいた、インドネシア渡来系の隼人が信仰していた神様。しょっちゅう反乱を起こしていたので、大和朝廷にとって、隼人対策は重要な政治課題だったらしいです。


◆山幸彦と海幸彦

 狩人の山幸彦が、猟師の兄の海幸彦と、互いの道具を取り替えて釣りに出掛けました。兄貴は渋ったんですけど、少しならと応じます。
 で、山幸彦は一匹も釣れなかった上、釣り針を失くしてしまいます。青い顔で家に戻ると、苦笑した兄が帰ってきました。

「いやあ、駄目だったわ。やっぱ、俺は漁師で、お前は狩人なんだろうな。良い勉強になったというところか」
「あの、兄さん」
「なんだよ? そんなに暗い顔をしなくても……って、何だと!」

 釣り針を失くしたと打ち明けた山幸彦に、とにかく返せと兄は詰め寄りました。
 弁償すべく自分の剣を潰して千本の釣り針を作ったんですが、あれでなければ駄目だと拒否されます。

 山幸彦が海辺で途方に暮れていると、塩椎神(しおつちのかみ)がやってきて事情を尋ねます。彼は山幸彦に、綿津見神(わたつみのかみ)という海神の宮殿へ行かせました。イザナギが黄泉から帰った時に、お姉ちゃん達と一緒に生まれた神様です。(違うという説もある)

 着いたものの、アポも無しにどうしたら、と山幸彦が迷っていると。ワタツミの娘の豊玉姫神(とよたまひめのかみ)お付きのメイドさんが、水を汲みに出てきました。

「すみません、お水を貰えませんか?」
「あ、良いですよ。はい、どうぞ」

 とメイドさんは水を差し出してくれたんですが、彼は飲もうとせず。首に掛けていた玉を口に入れてから、器に吐きました。

「何するんですか!」

 慌てたメイドさんが取ろうとするのに、くっついて離れない。参ったな、とお嬢様に報告へ行くと、興味を持ったトヨタマヒメが出てきます。
 さあ、何度目か忘れましたが、やっぱり一目惚れです。親父も顔を出して、ニニギの子供なのを見ると、娘と結婚させました。
 そして、三年の月日が経ってから、山幸彦が深い溜め息を吐きます。
 ……すっかり忘れてたみたいですね。確か、釣針を探しに来たはずなんですが。そういう性格だから、お兄さんも烈火の如く怒ったんだと思いますよ。

 事情を話した娘婿に、ワタツミが魚達を呼び集めて釣り針の事を尋ねると。赤鯛の喉に引っかかっていました。

「山幸彦君。お兄さんに釣り針を返す時、思いっきり呪ってあげなさい。そして、彼の農地とは逆の条件の場所を耕すんだよ。ついでに、この二つの珠をあげよう。お兄さんが攻めてきたら潮盈珠(しおみちのたま)で溺れさせ、頭を下げたら潮乾珠(しおひのたま)で助けてやりたまえ」

 かっかっか、と性格悪いワタツミは笑うのでした。
 鮫に送って貰った山幸彦は、釣り針を返して兄と一時和解します。三年も探していたのかと感激して、あっさり許してくれたでしょう……いや、どうせ遊んでたのだろうと、真相を見抜いていたかもしれません。

 ワタツミに言われた通りの場所に、山幸彦は田を作ります。海神が水を操ってるせいで、海幸彦の作物は実らず。次第に貧しくなっていき、弟を問い詰めました。

「どれだけ場所を変えても、お前だけ必ず水が豊富だなんて、おかしいだろ! 何をやってるのか、正直に吐いたらどうだ」
「イヤダナ、兄サン。誤解ニ決マッテルジャナイデスカ」
「せめて。もう少し上手く誤魔化したらどうだ」
「ええと、あの、その……ああもう、溺れてしまえ!」

 何度か溺れさせたり助けたりするうちに、兄が降参します。

「はっはっは。兄さん、俺の家臣になって貰うぞ」
「いいよ、もうどうでも。好きにしろ」


◆山幸彦の子供

 トヨタマヒメは妊娠したんですけど、天津神の子を海中では産めないので陸に上がります。浜辺に産所を作ろうとしたものの、茅も鵜の羽も葺き終わらないうちに産気づいてしましました。
 なので、子供は鵜葺屋葺不合命(うがやふきあえずのみこと)と名付けられます。物凄い適当な名前なのは、後から創作されたからじゃないか、と言われている神様です。
 苦しむ妻に、山幸彦はパニックに陥り、

「もう産まれそうなのか」
「はい。ただ、あなた。私は本来の姿に戻って産もうと思いますので。決して、中を覗いてはなりませんよ」

 ま、当たり前のように山幸彦が覗き。でかい鮫を見て、びびって逃げ出します。彼女は子供を置いて実家に帰り、代わりに妹の玉依姫神(たまよりひめのかみ)が、子供を育てました。
 未練のあったトヨタマヒメは、妹を介して山幸彦と文通していたようです。

 ウガヤフキアエズは成長すると、伯母で育ての親であるタマヨリヒメと結婚。四人の子供を得まして、末っ子が神倭伊波礼毘古命(かむやまといはれびこのみこと)。
 後の神武天皇です。


◆その後

 カムヤマトイハレビコは、兄達と一緒に東へ遠征します。先住民の抵抗は激しく、苦戦を強いられますが。それを退けた彼は、初代の天皇、神武天皇として即位しました。
 この辺から、神話というより天皇家の記録に移っていきますね。誰が誰の子供か、という血統記録、まあ家系図みたいな色が濃くなります。

 幾つかピックアップしますと。

 ヤマトタケルノミコトが東征した際、天叢雲剣を持っていったんですが。火計から逃れるべく草を薙いだので、草薙の剣(くさなぎのつるぎ)と呼ばれるようになったとか。

 超大国の唐と組んだ新羅が攻めてきたので、百済の援軍に向かったんですが。
 神功皇后(じんぐうこうごう。主神の応神天皇、比売神との三柱で八幡神。源氏の守り神)の大活躍で勝った、と書かれているものの、史実ではボロ負けでした。百済の王族や知識人は、それで相当数が日本に亡命しています。
 半島南部と日本の密接な関係は、魏志倭人伝に卑弥呼の国の領土と書かれている頃から続いてまして。百済とも、強固な同盟関係にあったようですね。

(なので、古事記と日本書紀では、やたら『新羅って最悪』と書かれています)


 古事記は、天皇家の伝承である『帝記』『旧辞』(共に口伝?)を、勅命で暗記した稗田阿禮(ひえだのあれ)が年老いたので。せっかく覚えたのに勿体ない、と太安万侶(おおのやすまろ)が書き取ったものです。
 日本書紀は、歴史書として勅命で編纂されたんですが。底本となっているのは、やはり『帝記』と『旧辞』。他にも、豪族の家に伝わる記録を出させたりしましたけど。
 資料が近いので、それほど内容も違っていません。時代により、どちらがより正しいとか、色々と揉めてきたものの。ま、どっちも正確な記録じゃありませんし。わりと、読み手の好き勝手に解釈されてきました。

 しかし、主要人物追っかけの歴史物語だけに、本筋に関わらない人のその後とか投げっぱなしですよね。
 イザナギやイザナミすら、役割を終えたら、その後どうなったんだかさっぱり分からない。最高神のアマテラスと、出番多いスサノオの兄弟であるツクヨミなんか、「間にも一人いるよ」ぐらいの記述ですから。
 (ちなみに三は拝火教の聖数。キリスト教も含め、詳しい話は、そのうち気が向いたら)


 最後に。一応、有名なエピソードを知らない人にも分かり易く紹介しよう、という意図で書きましたけど。
 読んだ方が、

「日本神話ってエロイな」

 と思ってくれれば、目的は達成出来たと思います。
 いえ。それでも全然構わなそうなとこが、日本の神々の良いところですから。


※尊称に関して
 神か命で統一しようかとも思いましたが、違和感の濃い字面になってもどうかと思いましたんで、バラバラです。

Q.日本神話エロといえば、阿刀田さんが書いてたよね。
A.阿刀田さんのファンで、エッセイ含めて50冊以上は読んでます。フランス小話な解説で面白いすよね、「知っていますか」シリーズ。

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