ゾロアスター教について

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 火を祭壇に置いて大事にしてるから拝火教だとか、善悪二元論の宗教だ。とかなら、御存知の方も多いでしょう。
 高校までの世界史教科書には、ゾロアスター教の本質を理解するにはどうでもいいような。これらの特徴しか書かれていません。

 ペルシャを主にした文化や、ユダヤ教などの他宗教へ与えた影響の大きさ。イスラム教徒に厳しく弾圧されてきた歴史を知っている方も、それなりにいると思います。

 いえ、ネットでざっと調べただけだと、この辺りが限界でしたので。もうちょっと突っ込んだ話をしたい、というのもあるんですが。ゾロアスター教は、『拝火教』などではなく。もっと別の、もっと重大な点があるじゃないか、というのを訴えたいわけでして。
 といっても。結論までは、あんまり面白おかしい話にはならないと思いますから。オチだけ知りたい方は、そこだけ読んで下さっても結構です。


◆まず火について

 善なる創造神アフラ・マズダを象徴するものとして、祭壇に火を置きます。ただこれ、別に火そのものを崇めてるわけではなく、火を通してアフラ・マズダを崇めてるわけっすね。
 聖地に置かれた火は、『戦士の火』と呼ばれてたりします。五輪の聖火リレーのように、ここから各地の神殿に火が移されてまして。これを灯し続けるのが、ゾロアスター教にとって大事な宗教儀式です。

 護摩の元ネタらしく、これを拝火教(中国とかに伝わったゾロアスター教)ではホーマといいます。ま、祈祷とか悪霊退散とか、密教儀式そのまんまな事もやってたと考えて下されば早いかと。


◆開祖とか

 ゾロアスターはギリシャ語読みで、ペルシャ語ではザラスシュトラとなります。
 ちなみにドイツ語ではツァラトゥストラ。ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」と、『2001年宇宙への旅』の同タイトルのテーマ曲も、彼が元。

 今のペルシャ語でゾロアスター教は、ディーネ・ザルドゥシュト(ゾロアスターの教え)とか呼ばれているそうです。信者も、長い間の弾圧によって激減しましたが、細々と信仰を続けています。
 ま、形を変えて、イスラム教の一派に受け継がれてはいるんですが。

 ゾロアスターの生まれや時期は諸説ありまして。紀元前五世紀か前十五、六世紀にペルシャ東部に生まれた宗教家です。
 三十ぐらいの時、神の啓示を受けたとかいって布教に出かけたんですけど。十年かかって集めた信者は、たった一人。それも親戚だっていうんだから、大したもんです。まあ、その後で王族に食い込んで、勢力を伸ばす事になります。

 私は永遠だ、国の軍勢を勝たせるとか言いつつ、祭壇で儀式中(説教?)に暗殺されて死にます。享年は七十七歳。

 ゾロアスター教の指導者は、ザラシュトロー・トマ(ゾロアスターに最も似た者)と呼ばれており。ゾロアスターの事は、救世主<サオシュヤント>とか言われたりします。
 ヘブライ語の『油を灌がれた者<メシア>』の語源となったもので。当時の王位継承儀式が油で聖別する事から来ていて、王を意味します。勿論、ユダヤ教のメシアもこれで、ギリシャ語ではキリストといいます。(なもんで、ユダヤの王とならなかったイエスを、メシアと認めない教派があるんですよ)

 サオシュヤントは複数いますが、重要なのは三名。「正義を栄えさせる者」のウクシュヤト・ウルタ。「帰命を栄えさせる者」のウクシュヤト・ヌマフ。そして、最後の審判を行う「正義の具現者」、アストワト・ウルタです。

 バビロン捕囚を開放したアケメネス朝ペルシャは、ゾロアスター教が主流でしたので。ユダヤ人は、感謝とか処世術とかで、この辺を自分達の教義に取り入れて同化策にしたんでしょう。


◆教義とか

『善と悪によって世界は分断されており、人は自由意志でどちらを選ぶ事も出来る。ただし、いずれ悪は必ず滅ぼされ、悪人は破滅するであろう』

 って感じです。善行を積んだり、免罪符を買っても、善人に近づいたりはしません。後で書きますが、『クワェード・ダフ』こそが重要なんです。
 善悪のトップは、スプンタ・マンユとアンリ・マンユ。アフラ・マズダは創造者で善神。双子の息子が対立する様子を、生暖かく見守ってんでしょうか。


 ゾロアスターの特徴として、マニ教なんかの一神教を激しく攻撃した点が挙げられます。簡単に言うと、「悪も生み出したんなら、その造物主には悪の面もある」ってわけで。善と悪は相容れず、その間をふらふらしてるのが人間、ってな考えだったみたいですね。
 イスラム教に弾圧されたのも、元の勢力の大きさもありますが、これが大きな原因。アラーを唯一絶対の神と崇める彼らには、到底受け入れられない主張でしょう?

 グノーシス派みたいに、肉体を悪とした解脱とか開放、平たく言うと死にたがりのマゾ達とは違いまして。性欲とかを、ゾロアスターは別に否定していません。というか、これを肯定してるのは大事。オチに関わってます。

 ま、善悪を始め、よく対立させる概念を持ち出してるって事で。
 昼夜の気温差が激しかったり。乾季と雨季の落差が極端な気候なんかから、そういう思想が生まれたんじゃないかと言われてますね。


 他には、三つの徳。善思<フマタ>、善語<フークタ>、善行<フワルシュタ>が大事ですよ〜とか。ああ、意味は字面のまんまです。
 アフラ・マズダはまず天空を作り、水、大地。植物、動物、人間。最後に火を作り出した! って創世論とか。
 最初の人間は、背丈と幅が同じとかいうガヤ・マルタンなんですが。彼はアンリ・マンユの死魔に殺されて、その精子で大地母神アールマティが受胎。んで最初の男女が生まれました、やら。
 黄金時代と称される理想の古代文明、その王の名がイマ。インド経由で中国に行き、閻魔になったりするわけですわ。

 教義の細かい部分は、わりとどうでも良いでしょうね。
 善側と悪側の神々は対に七柱づついて、それぞれ司っているものもありますけど。わざわざ調べる人でも無い限り、興味ありませんわな。
 上のアールマティが善の七柱に入ってるのと。インド神話ではインドラの、虚偽の神・ドゥルジが悪の七柱に入ってる事だけで十分ですよね。


 インド神話と比較して面白いのは、アフラ・マズダがアスラ(阿修羅)の語源になってる事でしょうか。
 土着の先住民、ドラヴィダ族にとって。アーリア系の侵略者や、彼らの信仰していた神々は敵になるわけですよ。ペルシャ語ではダエーワですが、インドではデーヴァ。折り返し、欧州に入ってデビルになるんだから、分からないもんです。


◆最も大事な教義

 ゾロアスター教では聖典たるアヴェスタとか、マンスラ(インドでいうマントラ。真言の事)の三大呪文やら。もっと言っちゃえば、戦士の火よりも大事なものがあります。

 ちらっと触れたクワェード・ダフなんですけど。

 きちんとそれをこなさないと、胸を張って善人だと言えないわけです。ゾロアスターにペルシャの王朝で最も褒め称えられた王子は、七人だったかと実行しています。もう、これ以上ないくらいに敬虔な信徒なわけっすね。
 それほどのレベルでは、生きながらにして幽界を見てくる事が出来るそうで。王子は妻達に囲まれたまま、インドでソーマと呼ばれるハオマ(神酒なんですけど、幻覚作用のある麻薬かなんかでしょう)を使い。冥界旅行をしてきて、父王に報告しました。


 もう締めに入ってるんで、ぶっちゃけますと。クワェード・ダフとは、最近親婚の事です。ええ、上の王子様は、妹全員を孕ませたわけなんすよ。

 ね? ゾロアスター教は火を崇めるだとか、善悪二元論だとか。本気で、どーでも良い話に感じるでしょう?
 こんな特徴あんのに、なーにが「火を特徴とした最古の宗教のうちの一つ」だよ。って教科書を鼻で笑いたくなりますわな。

 シスコンの韜晦に、「俺、ゾロアスター教徒だから」って言っても間違いじゃなくて。ええ、実は使おうと思いつつ、今のとこ使い損ねてるネタなんですけど。
 まとめると、ツァラトゥストラはかく語りき。

「お前が本当に善人ならば、実の姉妹を全員孕ませるんだ!」

 ゾロアスターって、すげえ人ですわ。そりゃ、十年かかっても信者一人しか得られないわけっすよ。
 つか、三十になってシスコンを開き直ったんだろうか。

 


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