-対談- クリーニング師・林ユタカ × ヘア・メイクアップアーティスト・二法田諭

――それでは、現在活躍中のお二人から、技術論、そして今回のテーマである『流儀』についてお話を聞かせて頂きたいと思います。 まず最初に2人の出会いを教えてください。

林ユタカ
林 ユタカ YUTAKA HAYASHI
復元技術者。レッツクリーニング代表。
1969年神奈川県横浜市生まれ。
依頼者には著名人なども数多く、復元のスペシャリストとして活躍中。「きれいにしたい!」という思い一筋に2007年に『染みゼロ宣言』を開始。音楽アーティストからの転身という、業界で異色の経歴も持つ。 主な監修協力書に、『プロが教える わが家のシミ抜き&洗濯術』(世界文化社)・『とりたいシミがスッキリ落ちる!驚きのシミ抜き事典 130』(永岡書店)など。
林ユタカ:
もう15年以上も前になるね。当時僕はクリーニング師になったばかりの頃で、二法田君もヘア・メイクアップアーティストとして駆け出しの頃だったよね。お互いに夢を語り合ったのを今でも覚えています。
あの頃は2人共ね、結構なやんちゃさんでしたね、詳しくは言えません(笑) でも、あの時代があり今があるんだろうと思っています。
二法田諭:
15年以上も前になるんですね、なんだか早いですね。ちょうどユタカさんが音楽アーティストから転身した頃ですよね。こんな根っからのアーティストな人がクリーニング業界ですからね。当時はもの凄く驚いたのを覚えています。

――メイクアップとクリーニングは似ている部分が多いと聞きましたが?

林ユタカ:
クリーニング業を大きく捉えるとして、確かにメイクアップと共通する部分はありますね。色補正などの三原色の使い方などは、まさにメイクかもしれません。この辺りは二法田君の技術はとても参考になります。
しかし二法田君はテーマを創造してアイディアで勝負する世界ですよね。もの凄く感性を必要とする仕事で、まさにアーティストなんですよ。実は非常に似ている部分があるのですが、僕の多くの技術は常にリスクと向き合わなければいけない。そういう意味ではお医者さんに近いんですよ。
二法田諭:
ユタカさんが言っている技術的な部分はとても似ていますよ。色という物に対する感性というか必要な部分。素材をどう見せるかという作業ですね。テクニック的な話をすればまったく同じ部分もありますしね。
でも、ユタカさんは化学理論に基づいて、もの凄く繊細な作業をしています。このプロセスに関して僕も凄く勉強になっているんですよ。

――少し具体的な話を聞かせて下さい。ユタカさんが代表取締役に就任したのは2007年ですね。まず最初にどのような事を行ったのでしょうか?

林ユタカ:
最初に『この染みは落とせません』というカードを全て廃棄しました。当時、日本のクリーニング会社の染み抜き除去率は50%以下だった思いますが、同じく消費者の50%がクリーニング会社に不満を持っていたんです。これを凄く疑問に感じていましたし、100%を目指すべきだと思いました。今思えばこれが始まりでしたね。

――それが現在の『染みゼロ宣言』に発展していったのですね。

林ユタカ:
そうです。この染みゼロ宣言はとても大変な作業でしたが、やはり使命感みたいな物があったんだと思います。また、電車を1時間以上乗って来店してくださるお客様が多くなり、そんな人達の期待に応えなければいけない。そんな思いが強かったのを覚えています。

――この『染みゼロ宣言』はどのような技術から出来たのですか?

林ユタカ:
詳しい技術論は長くなりますので省略しますが、実は染み抜きで一番大切な技術は漂白なんです。ほとんどの染みには油分が関係していて、当然時間を経過すれば酸化しますよね。酸化が進めば黄変し、漂白以外では除去出来ません。この漂白を極めなければ除去率95%以上なんて無理なんです。勿論それだけではないですが、これはとても核となる部分です。
また、当時から見えない染みを除去しようと考えていましたから、特にこだわったのが水洗いだったんです。衣替えの場合、お客様は1年後に洋服を出すんですよね。その時に見えなかった汗や水溶性の汚れが酸化して黄変しないような処理をしました。
二法田諭
二法田諭 SATOSHI NIHOUDA
ヘア・メイクアップアーティスト。ラ・ドンナ所属。
藤原美智子のアシスタントを経て現在に至る。
多くのファッション雑誌やCM、アーティストの撮影で活躍中。ナチュラルメイクからハイモードまでを幅広く手掛けている。
主なクライアント
雑誌:
CLASSY/CanCam/Oggi/anan/Ray/MORE 他
タレント:
井川遥/梅宮アンナ/三浦りさこ/森泉 他
CM広告:
NTT Docomo/サントリーワイン/ハウス食品/JRA 他
二法田諭:
この染み抜きの技術は凄いです。僕は実際に目の前で見ましたから。古いワインやコーヒーの染みがあっという間に消えていくんですよ!まるで魔法を見ている感じでしたね。
僕は近所のクリーニング会社に染み抜きをお願いした事もあるんです。でもほとんどを落としてくれないんですよね。だからユタカさんの技術を見た瞬間に本当に凄いって思いましたよ。簡単にやっている様に見えるんですけどね。

――そして今回、新たに全国から宅急便で送れるサービスを開始しましたね。これはとても要望が多かったと聞きましたが。

林ユタカ:
そうですね。これに関しては全国から沢山の要望メールを頂きました。インターネット上のコミュニティでも要望が多かったですからね。
ですがこの頃から、年間7万着近い処理と復元をしていましたので、完全に処理能力を超えている状況だったんです。僕としては、これ以上の作業は無理だと考えていました。
しかし、二法田君もそうですが、都内や遠方からわざわざ来店してくれるお客様も沢山います。それを考えると、このサービスは絶対にやらなくてはいけないと思いました。お客様の為に時間や手間を惜しんではいけないと思ったんです。

――お互いの業界に関して質問します。どのような未来を考えていますか?

林ユタカ:
まずはクリーニング業界の話として、当然、技術力は業界として底上げしなければいけないでしょうね。マーケットは明らかに高い技術を求めているのですから。
しかしそれだけではダメなんですね。たしかな事として僕達は洋服を扱う仕事をしている訳です。当然業界の関係者はもっとファッションに感心を持つべきでしょう。アパレルやデザイナーに深くアドバイスをしている立場なんです。彼らは大きく若者文化を動かす原動力の一つですよね。そういう意味では僕達もカルチャーを造り出す意識があっていいと思うんですよ。
例えば僕が自分で悪魔染めに染色した羊革のバックスキンのパンツがあります。これを若い人達は『どこのブランドですか?』って聞いて来るんです。こんな事も出来るんだよと、もっと積極的になる必要があるんです。
逆を言えば僕たちにしか出来ない技術だという事。それらをきちんとアピールする事が大事だと思っています。
二法田諭:
そうですね。僕の業界の話として、今はインターネットなどの普及により、世界の情報を簡単に見ることが出来ます。そして同時に多くの海外ブランドが日本に進出していますよね。僕らのアイデアをもっと世界に見せる必要があるんです。
日本のファッション文化を世界から注目させたいんですよ。その為には、常に自由な発想で日本らしく、そして新しいものを世の中に発信しなければなりません。業界として、そうあり続ける事が必要だと感じています。

――それでは最後にお互いの夢を聞かせて下さい。

林ユタカ:
これは子供達の事です。将来なりたい職業ランキングにクリーニング師が入る事です。これは夢ですね、素晴らしい職業だという事を魅せて行きたいと思っています。この仕事がカッコいいと思われる様に努力したいと思います。
そういう意味では二法田君の仕事には負けたくないですね。
二法田諭:
僕も同じですね。これからメイクアップを目指す人達の為にも、そして、子供達の時代には全世界の人が当たり前のように日本のファッション文化を目にする。そんな時代を作りたいです。これが僕の夢ですね。

――今日はありがとうございました。

2010年某日

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