世界と日本の主要都市の自然災害リスク評価

 世界および日本の主要都市100について、概略の自然災害リスク指数 (Disaster Risk Index) を算定した。東京など日本の大都市の自然災害リスクがどれほど巨大であるか、立地の土地条件がいかに悪いかを、世界との比較でリアルに示すのが主な目的である。
世界の都市のリスク指数については、2002年にミュンヘン再保険会社が示したものがよく知られているが、この算定方法は不明であり、また、その指数に地域の災害環境条件が反映していないのが明らかな都市が多くみられる。そこで、各都市域の地形・地盤などの土地条件に重点をおいた基準を与えて、独自の評価作業を行った。
リスク評価の結果は、どのようなリスク量を、いかなるデータを使用し、どの方法・手順で求めるかに依存するもので、単純な相互比較はできない。ここでの評価では可能最大規模の被害量(Maximum Damage Potential)に相当する相対値を求めており、都市圏の規模が直接的に反映したものになっている。


1 評価の方法
a 評価したリスク量
 都市中心市街が展開する地域の土地素因(地形・地盤など)の場に、地震・大雨などの災害誘因が、その地域で起こり得る最大の強度で作用した場合に、対象市街域の全域で生じる可能性のある最大規模の人的・物的被害の総量に相当する値を求め、この相対値をリスク指数とした。洪水・津波など災害諸事象の規模・強度とその作用域の面積(人口・資産の大きさを反映)との積で表現しており、都市が立地する各地形・地盤域の面積の大きさが関係している。各種防災対策の進展の程度など地域の災害抵抗性のレベルについてはほとんど評価に含めていない。災害の危険が小さければ対策をとる必要性も当然に低くなるといったように、危険度と密接に関係しているからだ。

b 対象災害
 強震動災害、津波災害、河川洪水災害、高潮災害、土砂災害の5災害を対象とし、それぞれについて個別に評価を行い、また、その結果を総合化した。地震火災は建物倒壊規模に関係するので、強震動災害のところで考慮に入れた。火山災害のリスクについては、広域に影響を与える大噴火の降灰は対象外とし、泥流についてのみ土砂災害のところで評価に取り入れた。地域性が捉えがたい強風災害は対象外としたが、北米中央部のトルネードに関しては該当都市の評価点にいくらかの加算をした。

c 対象都市
 日本については、県庁所在都市のほぼ総ておよび人口の多い都市の計55都市を選んだ。中心市街域は20万分の1地勢図により区画し、その地形・地盤条件を判定・区分し、地図処理ソフトにより各面積を測定した。市街地内での人口・施設等の分布密度の違いは無視している。

世界については、巨大都市および主要首都の計45を選び、全世界をカバーする100万分の1航空地図(米運輸省)およびGoogle Earth の画像を使用して、密集市街域を区画した。したがって、行政単位ではない連続市街化域という大都市圏を対象にしている。これに合わせて日本では、東京大都市圏および大阪大都市圏という隣接都市も含めた連続市街化域を対象とした。その面積については、人口・建物密度の国・地域による大きな地域差を反映させるために、都市人口密度の値に基づき、欧州・日本の都市を基準1.0として、米国0.5、アフリカ・アジア1.5〜4.0などの補正値を与え、これを実面積に乗じて、人口・建物密度の違いを補正した。

d 災害誘因の強度ランク

 地震: 日本については、50年超過確率10%に対応する工学的基盤上の最大速度の分布図を、世界については、 50年超過確率のメルカリ震度階を示す図および最大加速度分布図(Hyndman、2007)を使用して、各地域の地震外力強度値を求め、ついで震度・加速度・速度と建物全壊率との関係に基づいて危険度の評価点数づけをした。たとえば、震度6強は全壊率がほぼ10%なので10、震度5弱は全壊率0.1%として0.1の評価点数とした。日干しレンガ造りなど耐震性の非常に劣る建物の多い乾燥地帯の都市や途上国の都市については、さらにこれらの2倍とした。 

 大雨: 日本については、大雨頻度および100年確率雨量(図5)をそれぞれランク分けし、各都市についてのそれらの値を加算し、次いで水害発生限界雨量の地域差を反映させるために、年平均降水量の逆数で示す補正値をこれに掛け合わせた。各地域の水害発生の限界雨量が年平均降水量にほぼ対応する地域差を示すことにこれは基づいている。世界については、各都市の年平均降水量を全地球平均降水量の1000mmで割った値を相対的な大雨外力強度とした。全世界で同一精度のデータが得難いので、年平均降水量が大雨の頻度・強度に関わる量であると単純化した。

e 土地素因の危険度評価点

 地形の判定: 国土地理院の50mメッシュ標高データおよび米国地質調査所提供のスペースシャトル標高データを使用し、地図処理ソフト(カシミール)により等高線図を描いて地形・地盤を判定し、また、地形・地盤種別ごとおよび一定海抜高域(5m以下など)の面積を測定した。

地震: 地形・地盤条件による地震動強さ(震度)の違いを、過去の地震記録から求め、さらに震度と住家全壊率との関係を使用して、各地形の危険度ランクを図6のように与えた。たとえば、潟起源低地・干拓地は最大の10、砂礫台地は1、山地は最小の0.1などである。これと同じように対象とした5災害総てについて、10〜0.1と2桁差の評価点数づけを行っている(図省略)。ついで地形・地盤ごとの面積にこれらの値を掛けて加算し、地震動災害に関わる土地素因評価点とした。予想被害の総量で示すので市街地面積と掛け合わせるという方法を採っている。

 津波: 沈み込みプレート境界に直面する海域、直面しない内湾、地震活動のない海域など、地理的位置による津波頻度・強度の相対値を示す値を、津波災害の記録に基づいて10〜0.1と2桁差の値で与え、海抜5m以下あるいは10m以下の海岸低地の面積に掛け合わせて、素因評価点とした。

 河川洪水: 人的被害や建物損壊被害には洪水の流体力(水深の2乗と地形勾配との積に比例)の大きさが強く関係する。過去の水害のデータに基づく地形種別と流体力および人・建物被害との関係により、各地形についての危険度評価点数を与えた。たとえば、山地内にある勾配大の谷底低地では危険度最大の10、大河川の氾濫原5、小河川の氾濫原1、台地上での湛水では危険度最小の0.1などである。洪水に関わる素因評価点は、地形ごとの危険度ランクと面積とを掛け合わせ、それらの加算値で表した。

 高潮: 熱帯低気圧(ハリケーン・台風・サイクロン)および発達した寒帯低気圧の来襲する海岸域および潮位増幅にかかわる海岸地形などにより、高潮危険度ランクを10〜0.1の2桁差の値で与えた。その到達危険域は海抜5m以下あるいは3m以下で海岸線からほぼ10km以内とした。

 土砂災害: 山地・丘陵地・台地の別、起伏の大きさ、谷の発達の程度、山麓の地形勾配などにより危険度ランクを与えた。たとえば、大起伏花崗岩山地内10、丘陵地縁辺1、台地0.1などである。多くが土砂災害の範疇にはいる火山災害のリスクは、対象とした都市では非常に小さいので省略し、比較的遠くまで到達する泥流についてのみここで評価に取り入れた。

2  災害リスク指数

地震動災害については地形・地盤条件による土地素因評価点の和に地域ごとの地震外力値を乗じてリスク指数を算定した。洪水および土砂災害については、素因評価点の和に大雨外力値を乗じて求めた。津波と高潮については、すでに素因条件区分に外力の強度・頻度を反映する地理的位置の要因が入っている。

 評価に使用したデータや基準値は災害ごとに異なるので、それぞれ対象とした都市全体の平均で割るという基準化を行って、使用したデータによる数値の違いの影響を除去した。これを大きさ順に並べた例が図1 、2 である。次に、地震・津波・洪水・高潮・土砂という5種の災害の発生頻度および生じる被害の規模を、過去の災害記録から大づかみに求めて、地震に2、土砂災害に0.5の補正係数を乗じ、5種全体を加算して総合リスク指数とした。これを大きさ順に示したのが図3および図5であり、地図として示したのが図4および図6である。

 環太平洋地域(インドネシア・カリブ海域を含む)は、世界で最も活動的な地震帯で取り巻かれ、また、近地および遠地の津波にも襲われるので、地震の危険は最大である。さらにその北西部(アジア東部)は、世界で最も頻繁に強い熱帯低気圧(台風)が来襲するので、大雨災害(洪水および土砂)と高潮の危険も最大である。したがって、この地域の海岸都市は総合リスクが非常に大きくなるが、立地の土地条件をみると日本以外では、危険が最も大きい軟弱地盤沿岸低湿地への密集市街の進出は小さく、内陸域への展開の方が著しい。この結果として、東京・大阪など日本列島南岸の都市の総合リスク指数は、世界で飛びぬけて大きな値を示すことになる。

3  高危険都市

a 世界の都市

総合リスク指数が日本以外で最大の都市は、地震帯・火山帯に位置する沿岸都市ジャカルタであるが、そのリスク指数は東京の1/3.5(面積では1/1.5)である。次いで大きいマニラは広い海岸低地・湖岸低地に面してはいるが、市街地は山地斜面の方に拡がっていて、土砂・洪水の危険が相対的に大きくなっている。土砂災害リスクが最大の都市は、山が海に迫った島・半島に立地するホンコンである。タイペイは太平洋西岸域の地震帯にあるが、海岸から15kmの河岸低地に立地していて津波・高潮の危険はない。シャンハイは長江デルタの河口部に位置するが、外海には直面していないので高潮・津波の危険は大きくはない。アジア南部では大河川デルタに立地する大都市は多いが、バンコク・ダッカ・コルカタなどのように、そのほとんどはかなり内陸の河岸低地にあるので、地震は別として、危険は河川洪水だけにほぼ限られる。

ミュンヘンレポートにおいて日本首都圏に次ぎリスク大と評価されたサンフランシスコは、山地斜面に展開した坂の街で地層は硬く、軟弱地盤の湾岸低地(bay mud area) はあっても高度利用はされていないので、地震の危険はとくに大きいものとはならない。ただ市域が広いため総合指数ではかなり大きくなる。ロサンゼルスはほぼ全域の地形・地盤条件が比較的良好であるが、市域が非常に広いので(ニューヨークに匹敵し、実面積で東京圏の2.5倍)、総合指数はサンフランシスコを超える。メキシコシティは地盤の非常に軟弱な湖成低地に市街が展開しているので、河川のない内陸高地にあるものの総合リスクは大きい。南米太平洋岸では、海岸低地への市街域展開がかなりあって総合指数が大きくなる都市にリマがある。

ユーラシア南縁地震帯では大きな地震災害の発生が最も頻繁であるが、都市のほとんどは内陸にあるので、総合リスク指数の大きい都市は少ない。イスタンブルでは低い海岸低地が非常に狭いので、高潮・津波の危険は小さい。ハリケーンが来襲する大西洋西岸域では、高潮リスクがやや大きい大都市にニューヨークがあるが、その地盤高は大部分が5m以上である。

 ヨーロッパでは、冬季に非常に発達するアイスランド低気圧の暴風・高潮に襲われる北海沿岸都市のアムステルダム・ロンドンなどで、リスクが比較的に大きい。大陸内部では、ゆるやかに流れる大陸河川氾濫の危険が多少ある程度なので、パリ・ベルリン・モスクワ・マドリッドなど内陸主要首都のリスク指数は、東京圏の1/100 以下である。この数値には市域の広さが反映しており、実質的な危険度はさらに1桁小さいとみたほうがよい。日本以外では全般的に、海に直面した低地に市街を展開している大都市は少ない。

b 日本の都市

 日本では、東京・横浜・名古屋・大阪の巨大都市をはじめとして川崎・静岡・尼崎・神戸・高知・広島・鹿児島など、関東から九州に至るベルト地帯にリスク大の都市が並ぶ(図11)。この地帯では、陸地近くにまで海溝が迫っていて巨大地震の危険が大きい、大雨の頻度が高い、太平洋に南面していて台風・高潮の危険が大きい、そしてなによりも人口・資産が集中している、という理由によるためである。太平洋側では地震と津波・高潮の災害の危険が大きいが、日本海側および内陸では洪水・土砂のウエイトが相対的に大きくなっている。

ここでは都市の規模(中心市街の面積を使用)を反映させた評価方法に拠っているので、各都市のリスク指数を面積で割った値、いわば実質危険度による相互比較を示す。東京区部はその半分が比較的安全な台地にあるので実質危険度は平均的な大きさである。この東京に比べ2倍以上の実質危険度を示す都市には、神戸・静岡・鹿児島・長崎・高知・徳島などがある。これらは山地が迫った沿岸部に位置し土砂の危険も加わるものが多い。2倍近い大きさの都市には、横浜・大阪・川崎・浜松・大分・宮崎・和歌山などがある。一方、東京の1/5以下と実質危険度の非常に小さいのは、さいたま・相模原・宇都宮などの、ほぼ全域が台地面上に位置する内陸都市である。東京の半分程度の大都市には札幌・福岡・京都などがある。

木造家屋が密集する市街地が広い東京については、地震火災の危険を加えると地震災害リスクは数倍にも大きくなる。首都であり世界的な経済中心の一つなので、社会的・経済的影響の大きさも考慮すると、災害リスクはさらに巨大になる。大阪は市域がより狭いことから東京に比べ総合リスクが小さくなるが、活断層が市域中央を貫く、台地がほとんどなくデルタ性低地が広い、などの土地環境条件からみて、東京よりも実質危険度はかなり高い。

日本の都市立地の土地条件は途上国に比べても極めて劣悪であり,その結果としてここに示すように,巨大な災害ポテンシャルが実在している.これはハイテク技術などで解消できるものでは決してなく,可能なかぎり安全な立地・土地利用の実現に向けた国土利用計画が必須である.防災土地利用の面からみると日本は世界最低のレベルにあり,それが東日本大震災の大津波災害につながっている.現在の東京が典型的に示すように,この国は防災をうたいながらも一方では災害ポテンシャルを一層高めるべく努力し,次の大災害を着々と準備しているように見受けられる.

 世界の自然災害被害をみてみると,死者の90%以上は低所得国で生じている.1961年以降の50年間における死者5万人以上の巨大災害は10件あるが(防災白書の統計表による.干ばつなど統計値の不確かな災害は除く),この半分の5件は2000年以降に集中して起こっている.これらは総て低所得あるいは中所得の下位にある国で生じたものである.これに先立つ1990年代には,国連主導による国際防災10年(IDNHR)のプロジェクトが大々的に行われた.これは防災の技術移転による途上国の災害軽減を主目的としたものであった.この期間後の10年間における巨大災害の集中は偶然的なものかもしれないが,自然災害の被害軽減が防災の科学技術だけの問題でないことを象徴的に示すものでもある.途上国に対する防災のハイテク技術供与が役立つためには,その国の経済向上が重要な前提条件となる.先進的諸国においても,災害時緊急対策を中心とするばかりで地域社会の災害脆弱性を抜本的に低減させる長期的な取り組みがなされなければ,巨大災害発生の可能性は低下しない.Tokyoがその典型である.大災害があると,防災関連の国際的な集まりが賑やかにとり行われるが,従来と同じ感覚・認識であれば,災害はこれと無関係に同じように起こり続ける.

                          (2013年7月5日)

    
   

 


















 



                                           

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水谷武司
元千葉大学理学部地球科学科教授

独立行政法人防災科学技術研究所客員研究員



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