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中国経済の減速と電力・鉄道貨物・四半期GDP

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 前編:中国経済の減速と電力・鉄道貨物・四半期GDP内訳等の推移
  李克強指数と言われる発電量、鉄道貨物輸送量の2005年以降の月次データ、 四半期GDPの産業内訳の推移などを掲載。 それらを用い、最近の大都市住宅価格の高騰や、国有企業の過剰設備と過大債務を背景とする、現状のGDP成長率を分析。
  2012年11月21日掲載開始、 以後、2016年10月までの最新データを追加・更新、
2016年9月に余分なグラフと記述を一部削除

          6.5%以上のGDP成長(2016年9月)

 多くの中国書籍の主張のように、中国経済が短期に破綻するとは考えません。しかし、中国経済は極めて厳しい状況です。

 習近平ほかの現メンバーを選任した2012年の中国共産党大会で、2020年までに、GDPと一人当たりの国民所得を2010年比で倍増させる計画が発表されました。また、201511月に習近平主席は、201620年の5か年計画で、成長率が7%前後になる見通しを示しました。

 2010年比で2020年のGDPを倍増するには、2016-20年のGDPの平均成長率は6.5%以上が必要です。
 
 中国経済の喫緊の課題として、国有企業の過剰設備と過大債務が指摘されています。金融機関を除く中国の企業債務は、BISの統計によれば、2016年第1四半期にはGDP170%に達し、2009年以降急拡大しています。

 投資主導から消費主導の経済への転換は、中国経済の持続的な安定成長に不可欠です。

 債務増大の抑制には、投資比率の低減が必要ですが、同時にGDP成長率を押し下げることも避けらないでしょう。国有企業の過剰設備を解消しつつ、6.5%以上のGDP成長率を維持することは極めて困難な課題です。

 GDP倍増の目標が達成できない場合、経済運営の失敗が数字で示されることになりますから、6.5%以上のGDP成長は、中国政府にとって最優先事項の一つと思われます。

 中国経済についてGDP成長率だけでなく、その内訳や、固定資産投資・不動産開発投資、債務残高などを併せて注視することが重要です。本ページの最後に、それらのデータを示しました。

(筆者が参照している中国経済のレポートの中では、ゴールドマン・サックスのWalled In: China's Great Dilemma, Jan.2016 が、その後の中国経済の状況をみると、現状をよく分析しているように思われます。)



   習近平体制に代わった2012年11月から、毎月データを追加更新しています。下記は後編です。
              後編:中国経済の減速、鉱工業生産と住宅価格

                    統計データで見る中国経済の減速  

           
中国のGDP値に対する疑念と、代替指標を用いたGDP値推測の試み
           中国経済に何が起きているか、構造転換とバブルの後遺症処理
               データで示す中国経済の構造転換と減速の実態
  
                中国の鉱工業生産の推移、68品目の10年間
                  中国経済の減速とサービス産業の拡大

1.電力消費の推移

 中国政府が発表する経済指標は、多くの人から疑念を持たれているようです。温家宝首相の後継の李克強氏は、嘗て、経済成長を評価する際にGDPではなく、電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資の実行という3つの統計を重視すると語ったとウィキリークスで暴露されました。

 中国経済に関する統計データの中では、
発電電力量が比較的信頼されているように思います。発電電力量は輸出入がほとんど無く、送配電損失を差し引けば、電力消費量と時間遅れなくほぼ等しくなります。集計上の大きな間違いがなければ、経済状況をよく反映するデータであると考えます。

 中国の国家統計局のデータベースで、2005年以降の月間の発電電力量の推移を調べてみました。統計データは、多くの国で自国語とともに英語のウェブページが用意されており、容易に調べることができま
す。


 データベースには、当月の電力量、その年の累計電力量、それらの対前年同月比増減が掲載されています。なお、電力量は発電端の値と思われます。累計電力量の掲載値と、各月の電力量の合計には少し違があります。
 また、対前年同月比の増減については、国家統計局データベースの掲載値と、前年同月の値から求めた計算前年比を示しました。両者には違いがあります。国家統計局のデータは、所定の規模以上の工業企業から提出された当月データを合計したものです。その際、それらの工業企業(毎年見直される)に、前年同月のデータも併せて提出させており、両者の比率が増減値になっていると注記されています。そのために、計算した前年比とは異なることになるようです。

 一、二月の電力量が減少しているのは、春節(旧正月)の影響と思われます。旧暦に基づく春節は一月の年もあれば、二月の年もあります。そのため、一、二月の対前年同月比は大きく振れた値となります。そのため、対前年同月比については、一月と二月の2ヶ月間の合計について増減を示しました。

 図-1は、中国の月間発電電力量の推移です。月ごとの変動はありますが、全体的には、ほぼ直線的に増加しているように見えます。2005年からの7年半で、発電電力量は2倍以上になっています。2012年には、月間電力量が4000億kWh前後ですから、年間では5兆kWh程度になります。日本の年間の発電電力量は1兆kWh前後ですから、日本の約5倍です。中国は経済成長を維持するために、エネルギーの確保が重要な課題になっていることが窺われます。現状は石炭火力が中心ですが、今後は原子力が増加するものと思われます。



  図-2に、月間発電電力量の対前年同月比の増減を示しました。国家統計局のデータベースの掲載値と、前年の電力量から計算した値を併記しました。
 -10%近くまでの電力量増加の大きな落ち込みは、2008年9月のリーマンショックに依るものです。それまでは、対前年同月比で15%前後の増加が続いていました。
 リーマンショックの後、中国政府は4兆元という大規模な財政出動を行ったことで景気が回復し、電力量の増加率も急速に増大しています。しかし、4兆元の効果もその後薄らいできたと言われ、ユーロ危機による欧州向輸出の減少などが加わったことで、2011年後半頃から電力量の増加率は急速に低下していることが分かります。
 2012年4月以降の半年間、対前年同月比の電力量の増加は3%以下の水準と低迷していましたが、10月以降回復していることが分かります。しかし、2013年に入り、対前年同月比の増加率は再び低下しています。


 図-3には、中国GDPの対前年比成長率の推移を示しました。また、図-4には2011年以降について、電力量の増加率とGDP成長率を対比して示しました。





 図-2と図-3に示されるように、2007年頃には電力量の増加率は15%前後、GDPの成長率は14%くらいでした。しかし、リーマンショックの際には、電力量の増加率がマイナスにまで落ち込んだのに対し、GDPの成長率はそれ程は大きく変化していません。
 また、図-4に示される2012年半ばの状況は、電力量の増加率の低下に比べて、GDPの成長率の低下は緩やかです。電力量の増加率が3%以下であるのに対し、GDPの成長率は7%台までしか低下していません。この辺が、中国政府が発表するGDPに疑念が持たれる所以であると思います。


2.鉄道貨物輸送量の推移
(2012年10月30日追加)

 鉄道貨物輸送量の推移のデータを紹介します。中国の貨物輸送量の統計は、鉄道輸送、ハイウェイ(トラック輸送)、水上輸送および民間航空の4つで示されています。図-5に、2011年のtonベースとton-kmベースのデータを示しました。
 tonベースで最も多いのはハイウェイ輸送で、鉄道輸送は、全体の11%に過ぎません。鉄道輸送や水上輸送は、長距離輸送のウェイトが高いようです。


 李克強首相の言は、鉄道輸送は貨物輸送量の一部に過ぎないが、統計データとして信用できるとの趣旨であると思います。人口の総数ですら疑念を持たれる大国で、ハイウェイ貨物輸送量を毎月どのようにして把握しているかについては、少し疑問を抱かざるをえません。
 
 図-6には、航空輸送を除く3者の貨物輸送量の推移を示しました。ハイウェイ輸送は輸送量が多いだけでなく、増加率も一番高くなっています。2005年からの7年半で、ハイウェイ輸送が2.7倍くらいに増加しているのに対し、鉄道輸送は約1.5倍です。
  データベースで鉄道輸送以外は、12月分は当月分の輸送量の記載が無く、年間の累計のみが示されています。その年の統計誤差を12月分で調整しているものと思われ、図-6では12月分はブランクとしました。また、対前年同月比ついては、発電電力量と同様の理由で、1月と2月の合計について、対前年同月比を示しました。


 図-7には、月間の鉄道貨物輸送量の推移を拡大して示しました。この図からも、リーマン・ショック後と、最近になって、鉄道貨物輸送量が落ち込んでいることが分かると思います。


 図-8には、鉄道輸送と輸送合計について、月間貨物輸送量の対前年同月比の増減を示しました。鉄道貨物輸送では、図-2の発電電力量と同様に、リーマン・ショックによる大きな落ち込みが見られます。発電電力量と類似の軌跡を描き、前年同月比で共に-10%まで低下しています。時期的には、鉄道輸送量のほうが1ヶ月ぐらい遅れているようです。
 2012年5月から増加率の急激な低下が始まっています。8月には、リーマン・ショック時と同程度のマイナス水準まで低下しており、景気減速の深刻さが窺われます。9月には少し回復していますが、前年同月の値を下回っています。
 12月は前年同月比で僅かに増加となりましたが、2013年1-2月の増加率はゼロ、3月は再びマイナス、4月、5月は更に低下しています。鉄道貨物輸送量は2013年1月以降の経済成長の減速を示しています。


習近平体制の2年半(2015年4月、但しグラフはその後もデータを追加)








習近平体制が始まった2012年11月から始めたこのページも2年半になり、主題である経済成長の鈍化もかなり進んだため、これまでの経緯を簡単に整理してみました。

このウェブページでは、後編の「中国経済の減速、鉱工業生産と不動産価格」と併せて、中国のGDPの推移に対し、鉱工業生産とその一項目である発電電力量、鉄道貨物輸送量、上海総合株価指数、危惧されるバブル崩壊に関して不動産開発投資額、主要70都市の新築住宅価格、マスコミで度々紹介される製造業PMIなどの毎月の推移を紹介してきました。

 2012年の胡錦濤体制の最後の時期は、経済成長が低下していたことが鉱工業生産のグラフから分かります。バブルの後遺症である不動産開発投資による地方政府の債務増大や、国営企業の過剰設備の問題を処理する意図で、不動産市場を規制したことが大きく影響したものと思います。不動産開発投資額には、それが明確に表れており、住宅価格も横這いを続けていました。

 習近平の新政権を始めるのにあたり、景気が低迷していては具合が悪いと思うのは当然でしょう。不動産市場の規制を緩和しました。鉱工業生産は少し持ち直しますが、影響は不動産開発投資額の急上昇と、住宅価格の上昇開始に表れました。これでは、李克強首相が唱えた安定成長への移行が達成できません。2013年初めに、再び不動産市場の規制が少し導入され、不動産開発投資額と鉱工業生産の増加率が少し低下しました。但し、住宅価格は上昇を続けました。鉱工業生産の増加率の変動は、前述したように、増幅された形で発電電力量と鉄道貨物輸送量の変動に反映されています。

 以後、上記の状況を繰り返し、GDPと鉱工業生産の増加率は、じりじりと低下を続けます。2014年に入ると、不動産開発投資額の増加率も急速に低下を始め、住宅価格も低下に転じます。GDP増加率の低下は緩やかですが、鉱工業生産の増加率の低下は顕著になります。その状態を正当化するため、新常態(ニューノーマル)という言葉が創出されたように見えます。

 他国に比べて中国は、中央政府の財政が健全で、共産党の一党独裁のため、経済問題に自由に対策が講じられるので、中国のバブル崩壊は起きないと多くのエコノミストが主張してきました。しかし、中国政府が講じられる対策は、あまり多くないように思われます。

消費の拡大により、経済成長を維持することが望ましい対策です。しかし、人口1人当たりの中国のGDPは、未だ極めて低く日本の1/5程度であり、加えて貧富の格差が大きいため、13.6億の人口に見合う消費は期待できません。住宅価格の上昇が止まると、不動産投資に投じられていた余剰資金は株式投資に向かい、2014年後半から上海総合指数を急上昇させました。

 経済成長を維持する対策としては、インフラ開発投資くらいしか中国政府には残されていないようです。そこで捻出されたのが、一帯一路(新シルクロード構想)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)だと思います。但し、インフラ開発投資が思惑通り進んだとしても、直ぐに成果に繋がるわけではありませんから、今後の中国の経済運営は容易なことではないでしょう。
 中国のGDPには疑念が持たれています。例えば、「米中経済・安全保障検討委員会、The Reliability of China’s Economic Data : An Analysis of National Output」のようなレポートが多数出されています。2015年第1四半期のGDPの対前年同期比の成長率は7%と発表されましたが、もしかしたら、実際にはもっと低いのかもしれません。



最近のGDP成長率(2016年1月)
 2016年の年明けから、中国経済の減速は、世界経済に大きな影響を及ぼしました。製造業の成長鈍化は、誰の目にも明らかになりました。しかし、直近2015年第3四半期累計のGDP成長率は6.9%で、それほど低下していません。それは、サービス産業の成長により支えられているためと説明されています。そこで、GDPの内訳である各産業部門の成長率の推移を調べてみました。

 国家統計局発行のChina Statistical Yearbook 2015のデータを用い、図-14にGDPと内訳産業部門の対前年比の成長率を示しました。農林水産業は第一次産業、鉱工業と建設業は第二次産業、その他の項目は第三次産業(サービス産業)のものです。2015年のデータは、Yearbook 2015に含まれていないため、2015年第3四半期までの累計値の対前年同期比の成長率を用いました。同データは、国家統計局のウェブページに四半期ごとに掲載されているものです。
 注目すべき項目としてGDPと、鉱工業、建設業、金融仲介業のグラフを太線で示しました。(グラフが輻輳して見難いため、後記の図-16、図-17を参照して下さい。

 
 図-14で、リーマン・ショック後の景気過熱が治まった2012年以降、GDP成長率は緩やかに低下しています。それに対し、鉱工業生産の成長率の低下は大きく、また、建設業の2015年の成長率低下は顕著です。
 注目すべきは金融仲介業(Finantial Intermediation)です。10%程度であった成長率が、2015年には17%に跳ね上がっています。2015年に入り、第二次産業の成長低下が顕著になったにもかかわらず、GDP成長率の低下が少ないのは、金融仲介業の増大が、GDP成長率の低下を抑制しているためであることが分かります。


2015年は株価、2016年は都市不動産の高騰に支えられるGDP20167月)
 中国国家統計局は第2四半期のGDP発表に先立ち、これまで除外していた企業の研究開発費を、国際基準に合わせて加算するように見直すと発表しました。これにより、対前年比のGDP成長率は、0.1ポイント未満ですが高くなるようです。

 第
2四半期のGDPの対前年同期比の成長率は、第1四半期と同じ6.7%と発表されました。GDP成長率が同じだからといって、産業状態が同じであるわけではありません。GDPの産業内訳を見ることが重要です。

 本題に入る前に、GDPの産業内訳の比率を示しておきます。図-152015年のデータです。農林水産業は一次産業、鉱工業と建設業は二次産業、残りは三次産業です。最も大きいのは鉱工業で、GDP1/3を占めています。農林水産業は約9%です。三次産業(サービス産業)で最も大きいのは卸売・小売業の約10%、次が金融仲介業、不動産業と続いています。


 -16、図-17に、2013年以後の四半期毎のGDPとその内訳の対前年同期比の増加率の推移を示しました。中国国家統計局のウェブに掲載されてデータです。なお、年初から各四半期までの累計値の対前年同期比の増加率のデータの場合は、累計期間のデフレータが一定と仮定して、近似的に各四半期値の増加率を求めました。




 先ず、GDP成長率は下がり続けてきましたが、2016年の第1、第2四半期は横ばいです。但し、GDP算出方法が見直されたことを考慮すれば、実態は少し低下したことになります。次に、一次産業の増加率は、34.5%の範囲で変化していますが、総じて比較的低い増加率で横ばいと言えるでしょう。


  以下、図-17の二次産業と三次産業の内訳について記載します。嘗ては10数%あった鉱工業生産の増加率は、2013年半ばから下がり続け、それがGDP成長率の低下に大きく影響しました。2016年第2四半期には、やっと下げ止まり、上昇に信じたように見えます。しかし、国有企業の過剰設備の解消を目指すはずが、予定通り進まなかったために、鉱工業生産の増加率が上昇したと考えられ喜ぶことはできません。


建設業の増加率は、2015年第2四半期に急落した後、第4四半期には回復し78%の水準を維持しています。この動きは不動開発投資の増加に関連したもので後述します。


三次産業で一番産業規模が大きい卸売・小売業の増加率は、2013年の10.5%から、2015年には6%へと大きく低下し、その後、横ばいを続けています。消費拡大により、製造業の増加率の低下が補われている訳ではないことが窺われます。

2015年の年間GDP成長率の6.9%を支えたのは金融仲介業でした。景気後退下で異常な株価の高騰は、不動産価格の下落により、そこに投じられていた余剰資金が株式に向かったためと考えられています。加えて、人民日報などが株価の更なる上昇を示唆したと言われます。また、20157月の株価急落に際し、異常とも思われる株価の買い支えが政府の指示により行われました。これら一連の動きは、GDP成長率をなんとか政府目標の範囲に収めたいという中国政府の意向を反映したものと思われます。

しかし、金融仲介業の増加率は、2015年第2四半期をピークに、直線的に低下を続けています。


2016年に入り増加率が急上昇したのは不動産業です。不動産業の増加率は、4%から9%へと急上昇しました。中国の不動産市場の規模は、株式市場に比べてずっと大きく、また、住宅不動産は投資の対象です。住宅価格が上昇する局面では、不動産市場は過熱します。
 2011年頃から、住宅不動産在庫が積み上がっていることが指摘され、不動産開発投資の増加率も、2013年以降急速に低下しています。2014年半ば頃から低下に転じていた住宅価格は、しかし、2015年半ばから大都市を中心に上昇を始めました。

 大都市の住宅価格の高騰は、2015年の株価高騰と同様に異常なことです。しかし、中国政府にとって、GDP成長率の目標達成は至上命令であり、2015年の金融仲介業に代わり、2016年は不動産業がその役割を担うことになるものと思われます。



6.5%以上のGDP成長率 (2016年9月)

大都市住宅価格の高騰
 中国国家統計局は、毎月主要70都市の住宅価格を報告しています。図-18は、そのうちで、20161月と比べて8月の新築住宅価格が10%以上上昇した都市を示したものです。北京、上海、深圳などの16の大都市が含まれています。


一方、70都市の約半分は、住宅価格の上昇が2%以下かマイナスです。中国の住宅市場は、全般に在庫が積み上がり、適正な生産調整を行っても、その解消には数年を要すると考えられています。そのため、図-10に示したように、不動産開発投資額の対前年同月比の増加率は急速に低下し、2016年初めには殆どゼロになりました。

 大都市の住宅価格の高騰は、バブルと呼ぶべき異常な状態です。土地私有制のない中国では、住宅は投資の対象です。図-18で住宅価格の上昇は、2015年の半ばに始まっています。それは、中国の株価指数の上海総合が急落した時期に符合します。株式に投じられていた資金が、住宅投資に向かったものと推測されます。

 重要なのは、それがどのような結果に繋がったかです。図-17に示したGDP内訳の二次産業、三次産業の内訳の増加率を見て下さい。金融仲介業のグラフは、上海総合が異常な上昇を開始した2014年後半から上昇を開始し、上海総合が急落した2015年半ばをピークに、急速に低下しています。一方、2014年には低水準だった不動産業は、2015年の半ばから急上昇しています。建設業も同様に上昇しています。

 GDPだけ見ると、四半期の変化は0.1ポイント程度と僅かですが、その内訳は大きく変化しています。中国のGDPは政府目標どおりの成長率ですが、株価の急騰や住宅価格の高騰という異常な状態に支えられて達成されていることが窺われます。

国有企業と債務
 -19に、中国の債務残高のGDP比の推移を示しました。国際決済銀行(BIS)の統計データTotal credit to the non-financial sector の値です。
 2012
年以降、企業債務は急速に増加し、2016年第1四半期の企業債務はGDP比で約170%に達しています。仔細に見ると、この半年の増加率は上昇しているようです。シャドー・バンキング等の不透明さがあり、中国の債務はもっと大きいという推測もあります。
 
 下記右図は、BISから同時に発表された中国のCredit-to-GDP gapで、2016年第1四半期の値が、30.1%に達したという警告に関するものです。Credit-to-GDP gapとは、GDP比の債務と、その長期トレンドの差を示すものです。トレンドと比べて債務が過大になっていることを示す指標として用いられます。過去の金融危機の大半では、発生前の3年間に、このギャップが10%を超えていた経験から、10%を超えると3年以内に銀行危機が発生するリスクが高まることを示唆します。現在の中国の値は、10%よりもかなり高いものです。


 問題なのは、中国の大企業を占めている国有企業の多くが、大きな債務だけでなく、過剰設備を抱えていることです。無駄な投資で生じた債務は、不良債権になります。

 中国は、投資主導から消費主導への経済改革を進めています。それは、中国経済が企業や地方政府の債務を減らし、安定成長を持続するために不可欠でしょう。
 -20に、固定資産投資の対前年同期比増加率の推移を示しました。確かに、固定資産投資の増加率は低下しています。

 しかし、図
-21に示す支出側GDPで、投資支出に対応する国内総資本形成の割合は、先進国に比べて極めて高い水準です。


 -22には、最近の固定資産投資の全体と、民間投資の増加率を示しました。景気後退等の影響を受け、民間投資が低下しています。一方、固定資産投資全体で増加率の低下が少ないのは、国有企業等の固定資産投資が低下していないためと思います。


 -23は、国有企業の代表的な設備過剰産業である鉄鋼とセメントについて、粗鋼とセメントの生産量の対前年同月比増加率を示しました。過剰生産の解消のため、2015年にはマイナスとなっていた増加率が、最近はプラスに転じていることが分かります。


 -9に示した鉱工業生産の増加率で、20168月は、7月よりも0.2ポイント上昇したことで、景気回復の動きとという見方もあるようですが、そこには、設備過剰産業の増産の影響も含まれています。国有企業の改革はあまり進んでいません。

 本ページの最初に記載したように、中国政府は、2010年比で2020年のGDPを倍増する目標を掲げており、そのためには、2016-2020年の平均のGDP成長率を6.5%以上にする必要があります。
 直近の2016年第2四半期のGDP成長率は6.7%でした。上述のように中国経済は、多くの問題を抱えており、それらを処理しつつ、平均で6.5%以上のGDP成長率を達成することが極めて困難であろうというのが最初に記した意味です。


6.7%のGDP成長率の内訳 (2016年10月、70都市の住宅価格の発表をうけ一部修正)

2016年第3四半期のGDP成長率が6.7%と発表されました。3四半期連続で6.7%であることは、少し信じ難いことです。6.5%以上のGDP成長を目標に、政策努力をした結果、偶然に同じ成長率になったと理解することにしましょう。しかし、GDPの内訳は、この9か月間に変化しています。

上記の図-16、図-17を見て下さい。第3四半期には、一次産業と三次産業の成長率が上昇し、二次産業が低下しています。図-17の産業内訳で、顕著な変化はありませんが、2016年入って不動産業の対前年同期比の増加率は高い値で推移し、一方、金融仲介業は、第2、第3四半期と低い増加率を続けています。卸売・小売業の増加率には、少し改善の兆しが見られます。

都市部の住宅価格の高騰は9月も続いています(中国経済の減速、鉱工業生産と住宅価格)。6.7%のGDP成長は、住宅バブルに支えられたものです。不動産業の増加率が低下したとき、GDP成長率がどうなるか、注目されるところです。また、GDP成長率に低下が見られないのは、投資主導の経済からの転換があまり進んでいないことの表れと言えるでしょう。


 注意)投資や業務等の目的から、本ウェブページで紹介した事項に関心を持つ方は、中国国家統計局のウェブサイトにアクセスし、ご自身で統計データを確認し、判断して下さい。上述の文章・情報により被ったいかなる被害に対しても、当方は一切責任を負いません。